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天皇賞・秋

  • 2007年10月29日(月) 13時00分
 どちらかといえばアドマイヤムーンの方が単勝は売れるかもしれないと思えたが、枠順の差もあってメイショウサムソンが1番人気。そのメイショウサムソンは馬体重こそ宝塚記念とまったく同じでも、完成期に近づいた古馬らしく体つきが明らかに鋭くなっていた。

 馬場の回復も予想以上に早く、1枠から好スタート。結果、内枠の利も最大に生かすことができた。2〜3番手のいつもの先行態勢と思えたダイワメジャーはちょっと前半の行きっぷりが悪く、向こう正面ではメイショウサムソンの外に並んだものの、前半1000mは59.6秒。決して速くはない流れを考えると最初の誤算はここにあったろう。

 回復していた内を通ったメイショウサムソンは、4角で少しだけ外に出すとコスモバルクの外にまでは(あえて)回らず、一番早くスパートしてライバルとの差を広げようとする作戦に出た。バテる馬ではない。危険は爆発力のある馬を引きつけすぎること。

 直線、ゴールまで残り400mから200mまでの1Fがレースの中で最速の「11.4秒」。ここで後続を振り切ったのが、2馬身半差の完勝につながった。ハイペースを味方にしての1分58秒4(レースレコードと0.4秒差)ではなく、自分からスパートしての好時計勝ちは、このあとのジャパンCの快走も約束させるに十分の充実だろう。

 転厩した当初は陣営にかかるプレッシャーも責任もあまりに大きく、必死の厳しい調教の連続になったが、今回は陣営に大きな自信と小さな余裕が生まれていた。また、3週連続して追い切りに乗った武豊騎手は、少し控えめを予定した最終追い切りも、敢えて自分で乗ることを主張したという。攻めすぎないように…。

 逃げたコスモバルクは、ダービーやジャパンCと同じように、苦しくなって横に馬がいない形で1頭になったとき、よれてしまった。この時点で大きな不利を受けた馬もいる。これは五十嵐冬樹騎手が責められて仕方ない面はたしかに非常に大きいが、左回りでコスモバルクが出してしまう悪癖に近く、御法だけを責めるのは酷な面もある。

 コスモバルクがよれたためそれに驚いたか、エイシンデピュティが外に大きく斜行してしまった。人気のアドマイヤムーン、2着のアグネスアーク、ダイワメジャーなど複数の馬が大きな不利をうける残念な結果になったが、直接の加害馬となったエイシンデピュティの柴山騎手は制裁を受け、また五十嵐騎手も激しい非難を受け入れている。

 レース後のそれぞれの被害馬陣営の怒りは、とくに直後の場合、みんな興奮状態にあるのできわめて厳しい発言になったりするのは当然。それは仕方がない。また、「あの不利がなければ……」の連発も、みんなが認めるところだが、少し時間がたったら度を越した非難はさすがに慎みたいところはある。やり直して欲しいレースなど、それぞれ立場を変えればファンの側にしても山のように連続する。

 降着の生じたレースや、接触、斜行などのあったレースは、どういう立場にあっても後味が悪いものだが、故意や悪意のインターフェアは別にして、人と馬の競走につきものの不条理を受け入れなければならないのは、ファンはもちろん、競馬に関係する人びとが自分の中で消化しなければならない部分である。偉そうなことを言える立場にはないが、非難だけならだれでもいつでも、いくらでもできる。

 残念な不利はこのあとのレースで挽回、取り返してほしい。そういう次のレースに向けた視点でいくと、ダイワメジャーは素晴らしい馬体にみえたが、調教と同じで絶好調時の野獣のような迫力はなくなったことは否定できない。大丈夫とは思うが、のどの状態が昨年ほど良くないのではないかという見方も(一部には)ある。

 大きな不利を克服してもう一度伸びてきたアグネスアークと、やっぱり不利がありながら惜しい3着のカンパニーは立派。メイショウサムソンと今回の距離2000mではほとんど差がない能力を示したといえる。アドマイヤムーンは弾かれてバランスを崩した。今回の敗因の8割方はそういうことになるのだろうが、遅れて馬場入りの際も、パドックの気配も、心なしか最初から存在感が乏しかった気がする。仕上がってはいたが、休み明けの難しさは今回に限り、メイショウサムソンより、アドマイヤムーンに大きく関係していたのだろう。ポップロックはほとんど不利はなかった。もう少し早く反応できるかと思えたが、後半1000m58.8秒の時計勝負はやはり苦しかった。この馬はジャパンCの2400mでこそ。6歳馬でもまだ活力にあふれている。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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