スマートフォン版へ

本命アジアエクスプレスが「史上初」を達成した本当の理由【最終回】

  • 2013年12月18日(水) 18時00分


◆アジアエクスプレスを本命にしたポイントは初戦

 好評の2歳馬分析シリーズ、今回は阪神JFの続きを予定していたが、もう一つの2歳GI朝日杯が終わった直後なので、記憶の新しいうちにこちらをまず振り返っておこう。

 私の予想は、本命が4番人気アジアエクスプレス、対抗に5番人気ウインフルブルームだった。

 先週同様、3番人気以内の馬を本命、対抗にしなかったのは、人気馬が微妙に危なかったこともあった。

 この人気馬の危ない理由は後で解説することにして、まずは本命にしたアジアエクスプレスについて考えてみたい。

 アジアエクスプレスはダートからの出走で、JRA史上初の、「ダートしか使っていない馬の芝GI制覇」という記念碑的な走りとなった。

 世間的には驚きかもしれないが、Mを知ってる人なら、「ダートから芝」+「前走500万の鮮度」での激走なので、急坂中山でタフなGIになれば、精神的に走って当然のステップだと思った人も多かったはずだ。

 だが、実はそれほど単純なことではなかった(だからこそ、史上初だったわけだが)。

 私の予想によく触れている人は分かると思うが、「ダートから芝」のショック馬を素直に本命にすることは、実際はそれほど多くない。むしろ、数戦前にダートを使っている、よりソフトだが突破力も高い、「遠巻きのショック馬」を本命にすることの方が多い(阪神JFの8番人気フォーエバーモアや秋華賞の15番人気リラコサージュなどだ。本命にしなかったが、愛知杯の12番人気フーラブライドもこのパターンになる。このように遠巻きのダート戦には、なかなかの破壊力がある)。

 特にこのアジアエクスプレスの場合は、本命にするのに、ちょっとした問題があった。

 朝日杯は、急坂に加えて、トリッキーでタフな展開になるので、しぶとさが一時的に付加されるダートを使ってきた馬には有利になりやすい(特に今年は上がりの掛かるタフな馬場になったので、余計に効果が出た)。

 実際、96年には8番人気オープニングテーマが2着に激走したりしている。

 ただ、その激走ステップをよく見ると、一つの問題に突き当たる。前走中央のダートを使って3着以内に走った2頭は、ともに1400mを逃げていたのだ。前走が中央の1600m以上のダートだった馬は4頭いて、8着が最高と散々なのである(データは90年以降)。

 逆に中央のダート1400mだった馬は8頭いて、うち5頭が8着以内に走り、人気より着順が悪かった馬は8頭中1頭しかいないという、抜群に相性が良いステップになる。

 どうして今回と同じ距離である1600mの方がよくないのか?

 2歳の1600m以上の500万ダートは、単調で緩い流れになりやすい。特に東京1600mの場合は、コースも広いので、より単調な競馬になる。また芝スタートということもあって、レース形態も芝に近く、ダート戦としてはキレ味を要求される、特殊な条件だ。

 タフなダートを使って刺激を受けてきているというのが売りのダートからのステップなのに、その刺激が東京ダート1600mでは希薄なのだ。

 しかも500万である。

 500万からの出走というのは、「鮮度」という大きなプラス要素を与えるが、レベルが低いぶん、タフさや活性化度合いは低い。その活性化レベルの低さという、ステップ最大の弱点を、「東京ダート1600m」という芝に近い淡泊な条件では、補いきれないケースが多くなるわけだ。

 先週阪神JFで、前走芝1400mの500万の場合は、東京1400mだと淡泊すぎるので、内回りの京都1400mの方が有利だとしたのと、これは全く同一の構造である。

 いつも書くように、Mにおける経験というのは、必ずしも同じ経験である必要はない。いや、むしろ経験が同質過ぎると中毒を来す。そのステップの長所を活かし、弱点を補う経験こそが、最良の「経験」なのだ。

 実際、額面通りの経験に意味がないのは、今回の1〜3着馬全てが、前走500万からの格上げ戦だったことからも分かるだろう(タフな馬場になったので、より鮮度が意味を持ったからなのだが)。

 では、それでもアジアエクスプレス本命だったのは何故か?

 ポイントは初戦にある。

 多頭数16頭立ての1400mで、平均して速い流れを中団から競馬をしていた。1ハロン短い距離の多頭数で、差して連対したわけだ。

 これで前走が東京1600mダートという単調な流れを先行して押し切っただけという、刺激の少なさを補える。

 より忙しい距離で、しかも多頭数を単調に先行して押し切ったのではなく、差して競馬をしているのだから、刺激としてはかなり良質だ。

 この良質さがあれば、前走2番手の先行から1600mを押し切ったという、単調な経験も、あながちマイナスにはならない。

 芝スタートの東京マイルで、速めの流れを楽に2番手に付けられるわけだから、ここでスピード負けする懸念は少なくなるし、差してばかりよりは、前走先行していた方が活性化にもなる。

 ところで予想では、「ハイペースを差しに回れば」というような解説を書いた。

 何故、前走先行して勝ったのに、しかも一般的に先行力が有利と言われる中山なのに、わざわざ「差しに回れば」なのか。

 今まで書いてきたように、前走先行することによる活性化は、今回どのような脚質であるかとは、あまり関係がない。

「小回りで先行有利だから、前走先行していた馬を狙え」というような、短絡的な話ではないのだ。前走の位置取りは、別に今回の位置取りと同等のものを必要としない。むしろ、違っていた方が、位置取りショックを伴うので、より破壊力は出る。

 アジアエクスプレスの今回最大の売りは、2走前に差して、前走先行し、今回初めて経験する芝の速い流れで自然に差しに回るという、差し→先行→差しの、「バウンド位置取りショック」にある。

 これが可能なステップだからこそ、前走1600mでも本命にしたのだ。

 初めての芝で、しかもGI。

 当然無理に騎手が仕掛けない限り、馬の行くままに任せたら、自然に位置取りは後方になって、位置取りショックが完成する。

 これをMでは、騎手の恣意に頼らない「自然な位置取りショック」と呼び、成功確率が極めて高いのだ。

 もちろん、世界のムーアが、その自然な位置取りショックの意味を理屈としてどうかまでは分からないが、体感的に理解しないわけもなく、自然体で差しに回ったのでメンバー中最速上がりを記録し、1着になったのである。

 4番人気以降の人気薄が勝つ場合はほとんど、私の指示通りの位置取りを取ったケースになる。

 位置取りには、それほど重要な、前走や前々走からの伏線を持った意味があるのだ。

 そういう意味で、やや計算外だったのは、対抗にした5番人気ウインフルブルームの走りだ。

 同馬は500万勝ちで鮮度が高い。前走逃げているのも活性化の面では悪くない。そして何より良いのは、2走前だ。

 少頭数1800mの野路菊Sを差して連対している。緩い流れを我慢して差すことも出来る馬だ。

 前走が逃げといっても、500万のスローで逃げただけだから、GIの速い流れになれば、かなり無理に仕掛けない限り、今回の位置取りは自然に下がる。

 つまり、先程のアジアエクスプレスと同じ「自然な位置取りショック」の完成だ。

 また、前走は弱い相手の500万でのスローなので、取りこぼさないで勝つことに拘って逃げただけなので、ここは前走より後ろで競馬するという選択を、騎手がするのはほぼ確定だろう。

 この位置取りショックを、より成功に近づけるのが、2走前にスローを差した経験になる。

 スローを我慢して差せるのだから、速い流れを折り合わせて我慢させることは、さほど馬にも騎手にも難しくない。そこで対抗にした。

 ただレースでは、スタートが速かったこともあるが、いきなり先行してしまった。そのぶん、ショックの質が悪く、僅かに差されて3着に終わったのである。

 やや位置取りショックの仕掛けが甘かったというわけだ。

 逆に2着のショウナンアチーヴは、1400mを差した後、「延長で前に行くMの順位置取りショック」が嵌まった。3角の位置取りは前走と同じだが、前走は11頭立てなので、本人としてはかなり前に行っていることになる。

 この馬は差してばかりだが、初勝利が中山の1200mで、しかも2歳としては速い33秒台のラップを内枠の中団から追走しているという、強い刺激を受けているので、活性化問題は気にならない。

 ただ、それでも1600m以上を経験していない馬の、「差し馬の延長」だったので、そのまま後ろ寄りの差しを選択していたら、最後にキレ味が鈍っていた可能性が高く、順ショックになる、「前に行く位置取りショック」を掛けたのが大きかった。

※「大穴を獲る精神分析術」は、今回が最終回となります。長きに渡りご愛読頂き、誠にありがとうございました。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

ストレス、ショック療法など、競走馬の心身構造を馬券にする「Mの法則」を発見し、従来の競馬常識を完全に覆した。現在は、競馬雑誌等で活躍中のほか、馬券研究会「Mの会」を主催し、毎週予想情報の提供を行なっている。主な著書に「短縮ショッカー」、「ウマゲノム版種牡馬辞典」、「ポケット版 大穴血統辞典」などがある。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング