これは血のなせる“奇跡”だろうか。
何のことかといえば、今週のダービー
トライアル・
青葉賞に出走を予定する
マイネルスフェーンの話である。それはGIII
京成杯(3着)の翌週の、管理する
手塚貴久調教師の落胆した表情から始まる。
「レース後に歩様が乱れて、検査した結果が肩の筋肉痛。かなりひどい状態だね。残念ながら春は全休かなぁ。ウチのキュウ舎も今春のクラシックと無縁になっちゃったな」
順調であることの難しさは、長年競馬を見ていれば痛いほど分かる。時にクラシックがサバ
イバル戦と称されるのもそれが理由だ。思えば
京成杯がデビューから8戦目。その肉体が悲鳴を上げて不思議のない時期で、リタイアやむなしと受け止めていたのだが…。
「近々戻ってくるよ。ひょっとしたら
皐月賞にも間に合うかも。放牧1か月を過ぎて急激な回復を見せているんだ」
トレーナーがこう語ったのは3月下旬。さすがに驚いた。春全休どころか、これではちょっと長めの冬休みではないか。この言葉を聞いて、タフさを売りにした
母マイネジャーダの現役時をふと思い出した。
母親の初陣は2歳戦いの一番の、夏の福島。2着が続き初勝利は札幌に転戦した3戦目だった。ただ、本当にすごかったのはここからだ。
以後もほぼ“無休”で走り続け、2勝目は11戦目の5月東京(芝1600メートル)。さらにそこから中1週で駒を進めた
オークスはシンガリ人気ながら8着と大健闘。何とタフな牝馬かと舌を巻いた記憶がある。
「前走時にはなかった“フレッシュ感”が戻ってきたし、むしろいい休養になったのかも。1週前がウッド5ハロン66.0秒。これだけやったのは初めてですが、全然へこたれていません。やっぱり本質がタフなんでしょう」
こう語るのは松本純輔助手。今回の取材中、彼が馬栓棒に脳天を打ち付ける衝撃シーンがあったのだが、平然と取材対応するのだから担当者も負けず頑強である。
「
皐月賞に出ていても、前々の高速決着ではおそらく出番はなかったと思います。今年に限っては現時点の賞金(1750万円)ではダービー出走も怪しいし、その意味では
トライアルからの始動が災い転じて福となれば」
オークスで最速上がり(35秒2)をマークした母を思えば、東京2400メートルは格好の舞台。これに
父ステイゴールドの成長力がかみ合えば…“第2の奇跡”も夢ではあるまい。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)
東京スポーツ