今週の
ホープフルS(25日・中山)でJRAに挑戦する
コスモス(牡2歳、父
フリオーソ、川崎・
河津裕昭厩舎)に注目が集まる。
デビューから無傷の2連勝。いずれもスピードの違いを見せつけての逃走Vだ。2日のひばり特別(大井)では初のナイター&輸送&右回りを克服し、ほとんど追うところなく2馬身半差の完勝。ところがオーナーの岡田繁幸氏(66)は納得がいかない。「もっと突き放して勝つかと思った。時計も平凡」と厳しい
ジャッジ。それは同馬に寄せる期待が、とてつもなく大きいからだ。
英国ダービーへの挑戦。20数年前から毎年のように“これは!”と思った所有馬を登録してきた。国内屈指の相馬眼(馬の優劣を見極めるのに優れた能力の持ち主)と言われるオーナーは、ほぼ一代で今のビッグレッドファーム・グループを築き上げた。ただ、いまだにかなっていない国内クラシック制覇と、ともに抱く壮大な夢の実現。それを
コスモスに託したのだ。
コスモス自身はまだレースに登録していないが「
ホープフルSを楽勝するようなら、英国へ連れて行きますよ」ときっぱり。追加登録料の約1200万円を納める覚悟はできている。当初は同期の
トラスト(既に登録済み)を挑戦させるつもりだったが、同馬がデビュー2連勝を飾った後、ある時の取材の中で「実は
トラスト以上の馬がいるんだ。困ったよ」と
コスモスの存在を明かしてくれた。
「牧場では
トラストが常に3馬身はリードしていたけど、調教を重ねるうちに、逆に
コスモスが3馬身突き放すようになった。古馬のオープンクラスも相手にしなかったんだからね。よほどの能力がなければ(英国ダービーに)通用しないが、よほどの能力を持った馬だよ」と激しく心が沸き立った。
そんな
コスモスは、デビュー前に生死の境をさまようアク
シデントに見舞われていた。8月に川崎の
河津裕昭厩舎に入厩。レースに出走するための能力検査(通称・能検、
地方競馬のみで実施)を目指していた9月半ば、腸炎を起こして下痢が止まらなくなった。450キロ台あった馬体も410キロ台まで減ってしまった。もがき苦しむ姿に「獣医からも厳しいことを言われた。もう駄目だと思った」と振り返る。
その思いは河津裕師も同じだった。「熱が40度(通常37〜38度)から下がらなくて。
ホープフルSどころか、デビューさせること自体、とんでもないと思った。(デビュー戦を)圧勝した時はあきれちゃったよ。オーナーの執念と馬の生命力の強さ。まさにドラマだね」と笑顔を見せる。そう言えば、元祖・国民的
アイドルホースだった
ハイセイコーも、デビュー前に突然の高熱に冒され、命を落としかけたことがあった。最大のピンチを乗り越えた者同士、
コスモスには偉大な先輩に近づけるような活躍が期待される。
無敗のまま、いよいよ中央のターフに登場する。「こなしてくれるとは思っているが、ぶっつけ本番、やはり初めての芝はかなり不利だよね。ただ、能力では勝てると思っている」とオーナーの寄せる思いは熱い。14日、17日と川崎の小向ダートで4Fから軽めに流し、21日の最終リハに備えた。「あんな大きな病気をしたとは思えないほど順調に来られている。カイバもしっかり食べているし、さらに体が大きくなって成長しているよ」とトレーナーは目を細める。
同馬の父は今年の新種牡馬
フリオーソ。今は亡き、船橋競馬の闘将・川島正行調教師のもとで鍛えられ、交流G1で6勝した名馬だ。確かに芝での可能性は未知数だが、
その父ブライアンズタイムは
ナリタブライアン、
サニーブライアン、
タニノギムレットと3頭の
日本ダービー馬を輩出した。祖
母パルブライトも南関東(大井)出身だが、JRAへ移籍した後、97年
新潟記念、98年
函館記念と芝で重賞2勝。克服できる下地は整っている。
04年。ホッカイドウ競馬の
コスモバルクを擁し、JRAのクラシックに挑戦した。夢はかなわなかったが、06年
シンガポール航空国際Cで国際G1馬になった。14年には川崎競馬の
プレイアンドリアルとともに再び夢を追ったが、1月の
京成杯を制した直後に脚部不安を発症。志初期で引退となった。「
地方競馬の調教環境は中央に比べれば劣るけど、そんな中でも中央や世界の舞台で互角に戦える馬を出したい。そうなれば
地方競馬関係者の励みになり、
地方競馬全体の活性化にもつながる」と常々持論を展開するオーナー。
札幌2歳Sを制した
トラストは川崎の
河津裕昭厩舎から栗東の中村均厩舎に転厩。先週の
朝日杯FSでは5着に敗れたが、こちらは
日本ダービーを目指す予定。来春は“日英ダービー制覇”という大きな夢が待っている。馬名の由来は
トラスト=信頼。
コスモスは花の秋桜と宇宙を示すコスモから。オーナーは「秋桜は決して派手じゃないけど、誰からも親しみを持たれている花。そんな素朴さを持ちながらも、限りない可能性を信じて、求めて挑戦していきたい」ときっぱり。
花言葉は真心。信頼と真心を込めて、名物オーナーが期待する愛馬2頭が来春の競馬界をリードしていくだろう。(デイリースポーツ・村上英明)
提供:デイリースポーツ