昨年の
グランプリホース・
サトノダイヤモンドが好発進を決めた
阪神大賞典の同日。かつてのクラシック候補が味のある競馬で復活Vを遂げた。その名は
バンドワゴン(牡6歳、栗東・石坂正厩舎)。明け6歳となったが、闘志はまだ衰えていなかった。
準メインの
但馬S。ハナを切らなければ二束三文だった同馬が、この日はひと味違う走りを見せた。出遅れながらも、慌てることなく道中は折り合いに専念。直線は内ラチ沿いに押し込められたが、ひるむことなく、狭いスペースを頭から突っ込んだ。最後は逃げ粘る
グランアルマダ(2着)をはじき飛ばすようにゴールへ。その走りはまるで“重戦車”。スケールの大きな走りに、改めて重賞級の能力を感じた。
13年9月にデビュー。新馬戦でのちにG1で2着2回と活躍した
トゥザワールドに6馬身、2戦目の
エリカ賞では
ディープインパクトのおい・
ヴォルシェーブに5馬身差をつける圧巻の逃亡劇を演じ、一躍クラシック候補に名乗りを上げた。続く
きさらぎ賞こそ2着に敗れたものの、巨体から繰り出されるスピード&パワーは迫力満点。
皐月賞の有力候補に名を連ねた。
だが、本番1週前。追い切り後に脚部不安を発症し、無念のリタイア。思いのほか症状は重く、クラシックは不出走に終わるどころか、その後、約2年に及ぶ長期休養を余儀なくされた。
戦線復帰後は10、1、7、4着と不安定な走り。それでもクラス3戦目の今回、担当の久保助手は変わりそうな雰囲気を感じていた。「筋肉が硬くて使い込めない馬。一回一回が勝負って感じやな。レースを使っては放牧というパターンで調整しているが、今回の放牧帰りはあの馬なりに歩様がスムーズだった。背中の治療とかを(放牧先の)ノーザンファームしがらきのスタッフが一生懸命やってくれている。具合も良かったし、今回は思い通りの調整ができたんだ」。
レースではゲートに難があり、出遅れが致命傷となって自滅するケースが多かった。それも今回は「四肢をバタバタさせるのでいつもタイミングが合わないが、こないだは出た方じゃないか」と成長を感じた様子。後方イン突きのVには「大きい馬だし、まさか直線であんな狭いスペースを割ってくるとは」とさすがに驚いたようだが「ああいう競馬をしたのは初めて。戸惑いがあるのかと思ったが、こちらの心配を跳ね返すような強い勝ちっぷりだった。丸2年も休んでいた馬。オーナーも喜んでいたし、うれしかった」と、いい意味での誤算を手放しで喜んでいた。
以前はハミを噛むとガーッと行く面があったが「今はノーマルの馬具でも大丈夫。精神面が成長している。まともならどれだけ活躍できていたか」と仕上げ人は苦笑いを浮かべる。ケガの箇所も「今はパンとしているし、びくともしない」ときっぱり。馬体重は544キロだったが「もう少し絞れてもいいんじゃないか。それに筋肉が硬いから、夏場の方がもっと走れると思う。体も絞れるだろうからね。数を使っていないから、6歳でも馬は若い。気力も全く衰えていないよ」とさらなる良化を見込んでいる。大器が復活を遂げたことで、今後の期待は膨らむばかりだ。
次走は未定だが、かつて
ヴァーミリアンや
アグネスワールド、
フジヤマケンザンといった名馬を手がけた腕利きは「ああいう競馬を覚えたから、もっと長い距離を使ってみたいな」と、ゆったりとした競馬を試してみたい様子。「昔から好きだったし、子どもをやってみたかった」と話す
ホワイトマズル産駒。「弟は1億円馬(当歳セレクトセールで1億5500万円で落札)やしな」と
皐月賞の有力候補で異父弟の
スワーヴリチャードの存在も意識し、今後の快進撃でケガで失った期間を取り戻す構えだ。
「まだゲートなど、当てにしづらい面はあるけど、楽しみ。前走がホンマもんやったらええけどな」と久保助手。
バンドワゴンとは“パレードの先頭の楽隊車”のことだが、完全復活なれば、強気にハナを奪って後続を引き連れるあのシーンが再び見られるかも。その日はそう遠くはないはず。古馬中距離路線の層は分厚いが、スターホースを脅かす台風の目となってほしい。(デイリースポーツ・松浦孝司)
提供:デイリースポーツ