あれは1か月前のこと。
橋口キュウ舎の大仲(休憩所)で、その週の出走馬の談話を聞いていた時、不意にトレーナーの携帯電話が鳴った。
「はい。ええ。いい感じできています。よろしくお願いします」
相手は横山典だった。
「
ワンアンドオンリーの調子はどうかって。レース(
中京記念)までまだ1か月もあるこの時期に、気にかけてくれるのはうれしいですね」
エージェントをつけていないからという事情もあるのかもしれないが、当代きっての名手が、わざわざレースの1か月も前に、GIIIに出走する騎乗馬の近況を尋ねてくるのは、管理調教師にとってみれば、うれしいと同時に心強い思いだろう。
そもそも2歳未勝利戦V以来、3年10か月ぶりとなるマイル戦に出走する
キッカケになったのが、他ならぬ横山典の進言だった。
「前走(
目黒記念10着)後に、ノリさんが“この馬、まだやれるよ”ってアツく語ってくれて。20分ぐらい話し込みましたかね。ノリさんは以前から短い距離のほうがいいと思っていたらしい。
中京記念はどうかって提案してくれたのもノリさんです」と橋口調教師。
近走が冴えないとはいえ、仮にもダービー馬である以上、ハンデを背負う側の立場になるし、長距離戦から一気の距離短縮にうまく対応できるか不安は残る。が、これまで数え切れないぐらいの競走馬の本質を見抜き、それを陣営に
サジェスチョンして、結果を残してきたベテランの
ジャッジが、気になるのもまた事実だ。
「今までモタれる面を見せていましたけど、今はそれが全くないですからね。前回より状態はいいですよ。もうブリンカーも着けませんし、あとはノリさんの言うことにかけてみたいです」(橋口調教師)
果たしてダービー馬
ワンアンドオンリーがどんな走りを見せるのか。今年の
中京記念の見どころのひとつになる。
(栗東の坂路野郎・高岡功)
東京スポーツ