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【中山記念】小島太師 ディサイファとともに最終章飾る 唯一無二のホースマン

デイリースポーツ
  • 2018年02月23日(金) 06時00分
 「中山記念・G2」(25日、中山)

 2月末で定年を迎える10人、勇退する2人の調教師にとっては、今週末の競馬が最後の実戦となる。騎手時代は“サクラ”の主戦としてダービー2勝を挙げるなど活躍、調教師に転身後もマンハッタンカフェイーグルカフェでG1・5勝を挙げた小島太調教師(70)=美浦=は、中山記念ディサイファを送り込む。馬にとってもこれが引退レース。“華”のあるホースマンが最後も存在感を示すか。

 知床連山を望む北海道小清水町。世界遺産という言葉もなかった1947年、小島太は馬商の家に生を受けた。10戦無敗で日本ダービー制覇後、破傷風のため急死したトキノミノルがモデルの映画『幻の名馬』に感動し、競馬の世界にあこがれて上京。騎手になる夢をかなえた。そして今、全力疾走したホースマン人生52年の最終章25日を待つ。

 その生き様は騎手時代に集約される。華がある騎手と言われた。詩人、故寺山修司は「パリのジゴロか伯爵夫人のつばめか(中略)美しい馬に乗って華麗なレースをするのが小島太」と表現したものだ。日本ダービー2勝をはじめG1級レース10勝、重賞85勝。一方で、ミスと非難された騎乗も多かった。

 私生活も華やか。相撲好きで、亡くなった先代九重親方(元横綱千代の富士)と親交が深かった。相撲協会八角理事長とは今も酒を酌み交わす仲だ。他にも大物芸能人、プロ野球関係者、ゴルファーなど人脈は多彩。従来の騎手の枠から大きくはみ出していた。それゆえ、シンパとアンチの両極端に分かれたが、独自の世界を築き上げたことは誰も否定できない。

 人と同じ道を行くのが性に合わなかった。大厩舎は騎乗機会が少ないと思い、欲しいと言ってくれた高木良三厩舎に入門。選択は正しく、メキメキ頭角を現したが、師匠の馬でビッグタイトルを獲れなかった。騎手時代で一番、思い出のレースは?の問いに返ってきたのは意外な答えだ。

 「桜花賞サクライワイ(74年2着)。2番手でドシッと構え過ぎて仕掛けが遅れ、最後にインから武邦(故武邦彦元調教師)さんのタカエノカオリにスッとかわされた。スピードが身上の馬。オレに焦るぐらいの気持ちがあれば良かったが…。帰りの新幹線で師匠が『もったいなかったな』とつぶやいたのはズシンと心に響いた。今でも悔いが残る」

 一般的なイメージからは想像しにくい言葉。「それに比べてダービー2勝の喜びは、ほとんど瞬間で終わり、自分の中にはそれほど残らなかった。もちろん、すごく価値があって大事なレース。そこまでのプロセスも長いから十分に楽しめたがね。いつも完璧を目標にしたが、そうは乗れないことが多かった」。多くの失敗の上に数少ない成功がある。小島太に限ったことではないだろう。

 騎手フリー化に先鞭(せんべん)をつけた。83年、“サクラ”の全演植と騎乗契約をかわした。日本では初のケース。「フトシ」、「オヤジ」と呼び合う父子以上の関係ともいわれた。ケンカ別れした時期もあったが強い絆は復縁。全の死去9日後の93年スプリンターズSサクラバクシンオーで優勝、恩を返したのはあまりにも有名だ。

 88年サクラチヨノオーでダービーを制する前には父・竹次郎を亡くしていた。鬼の形相で追いまくり、メジロアルダンとの壮絶な叩き合いに勝った。辛口で知られた調教師の境勝太郎が「あのダービーは太の腕で勝った」と絶賛したものだ。悲しみ、逆境を勝利への執念に転化する、まれな能力を持っていた。

 「オヤジがいたから外国の一流のフレディー・ヘッドやフランキー・デットーリたちと知り合えた。流れる血の違いを感じ、日本人の自分じゃかなわないと思った。その前、アメリカに行って乗れずに帰ってきたこともあったが、当時としてはすごい経験。関取や芸能人との付き合いでは、プロは同じものを目指し同じ感覚なんだと実感した。それやこれやはオレの貴重な財産になっている」

 調教師に転身後、心から喜びを感じたことはないという。「勝てるはずの馬が負けたら、心の中でバカヤローと思う。でも、我に返って騎手の目で見ると仕方ないと感じることも多い。勝っても責任を果たせた安堵(あんど)が先立ち、騎手の時ほど楽しくなかった」。中山記念ディサイファが最後の重賞挑戦。馬にとってもこれが引退レースだ。「全力で無事に走ってほしい」と願う。

 小島太は競馬界の太陽、巨星ではなかった。だが、役者に見立てれば代わりがいない存在。自分の意志を持ち、縦横無尽に天空を駆け巡る彗星(すいせい)だった。騎手で1024勝、調教師で475勝(他に地方1勝)。残り2日で、あと1勝に迫るJRA合計1500勝を達成できるか。この男は最後まで希望を与え続けてくれる。=文中敬称略=

提供:デイリースポーツ

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