トレセンの朝はこんなに早いのか…。競馬記者になり、それを痛感する毎日だ。先週から栗東トレセンの馬場開場時間は午前6時になり、6月第4週以降はさらに早まって午前5時。「早起きは三文の徳」が本当なら、トレセン関係者は全員が徳を享受しないとおかしい。
“フルキチ”の愛称で知られる
古川吉洋は「三文以上」の徳を受けている。開催日以外の調教にはほぼ毎日、開場時間と同時刻にやって来る。雨の日も風の日も“無遅刻無欠席”を貫き、スタンド1階の待機所に顔を出す。そこには揺るぎないポリシーがある。
「いるだけで何かプラスになるかもしれない。この世界、自分の存在を知られないと意味がないので…。仮に調教をつける馬がいなくても朝一番にいれば、調教師さんに“空いてる?”とか言われ、それが
キッカケになることもある。そんなラッキーは年に1、2回ですが、ゼロよりはいい。ただ早起きするだけでいいんですよ」
不惑のGIジョッキーを知らない者はトレセン内にはいない。それでも積極的に顔を売るのは「乗ってナンボ」という騎手の宿命があるからだ。
そういえば先日、
福永祐一は「いくら技術があっても、僕らの職業は騎乗依頼がなければ成立しない。なくなったら引退するだけですよ」としみじみ語っていた。需要がなければ存在意義すらない。どんな仕事にも当てはまるが、恐ろしいほどハッキリと形に表れるのがジョッキーなのだ。
古川は
マイラーズCで昨年主戦を務めた
グァンチャーレに騎乗する。厩舎サイドが「下り坂でスピードにうまく乗れるタイプ。京都が一番合っている」(中島助手)と期待を寄せる重賞馬と再びタッグを組み、狙うは
東海S(
テイエムジンソク)、
きさらぎ賞(
サトノフェイバー)に続く、デビュー初となる年間重賞3勝目だ。
ちなみに、彼に名刺を渡すと「古川と申します」と笑顔で返答。これまで数々のスポーツ選手を取材してきたが、自己紹介されたのは初めて。今週、馬券に迷ったら古川から…と考えているが、もしかしたら彼の“営業”に記者までハマってしまったのかもしれない。
(童顔のオッサン野郎・江川佳孝)
東京スポーツ