「トレセン発(秘)話」の火曜担当・高岡功記者は、ある疑問を持った。「長距離決戦を制するにベストの選択は、前哨戦もまた長距離を使う」で本当にいいのか? 第157回
天皇賞・春(29日=京都芝外3200メートル)の“最大勢力”
阪神大賞典組に懐疑的な、このテーマに対する渾身取材の成果は、さにあらず。非
阪神大賞典組に
ターゲットを絞れば…。文句なしの「最強タッグ」に支えられた、あの馬が一気に浮上する――。
過去2年はともに
阪神大賞典を叩いて
天皇賞・春に出走していた
シュヴァルグランが、今年は
大阪杯(13着)からという“別ルート”をチョイスした。一昨年は0秒2差3着、昨年も0秒2差2着と、本番で相応の結果を出していたにもかかわらず…。その理由を友道調教師は「(阪神)大賞典から臨んだ2年がともに好走したとはいえ、勝てなかったから…。やっぱり3000メートルという長い距離を使った後というのは厳しいものがあるんだよね」と説明した。
過去10年の
阪神大賞典の勝ち馬で、本番も制したのは2008年
アドマイヤジュピタ、15年
ゴールドシップの2頭だけ。距離が本番に最も近い前哨戦としては物足りない結果だ。確かに友道調教師の言う通り、3000メートルを走った後というのは馬の疲労もそれだけ大きいと考えるのが正解なのか…。
「仮にスローのヨーイドンといった長丁場にありがちな競馬になったとしても、やっぱり長距離を走るということ自体が馬にとっては相当こたえる。ウチのキュウ舎の馬を例にとっても、短距離より長距離を走った馬の方がその後、脚元に不安が出る確率は高いんだよな」
発言の主は12年の
天皇賞・春を
ビートブラックで制した中村調教師だ。
「人間に例えたら分かりやすいんじゃないか。普通、トップのマラソンランナーが一年に走る大会の数はせいぜい1、2回ぐらいで、100メートルに出る選手に比べたら当然、少ない。それだけ疲労がなかなか抜けないってことなんだ。中5日の強行出場が話題になったマラソンの川内(優輝)みたいな選手は、あくまで例外中の例外だよ」
実を言うと、
天皇賞・春の勝ち馬が次走も連勝したというケースが、過去10年では一度としてない事実も、「長距離レースが競走馬に大きな負担をかける」という仮説を裏付ける間接証拠ともなっている。
ならば今年の“マラソン頂上決戦”は疲れの残っていないであろう「非
阪神大賞典組」からピックアップする手か。
もちろん、一昨年1着、昨年2着と好走した
阪神大賞典をあえて使わなかった冒頭の
シュヴァルグランの
大阪杯からの一変も怖いのだが、坂路野郎がより魅せられているのは
トーセンバジルだ。
この馬も、昨年は
阪神大賞典(3着)から本番(8着)に向かったが、今年は
日経賞(5着)に切り替えたクチ。しかも「前走は(発表上は良馬場でも)馬場が悪過ぎて、まったく走っていない。レース後はすぐに息が入ったくらいだからね」(藤原英調教師)と言うのだから、疲労は皆無だろう。
そもそも今年、リーディングトレーナー部門でぶっちぎりの快進撃を続ける藤原英調教師が「天皇賞が100%の勝負や」とメイチ駆けをにおわせていたように、前哨戦はいわば“捨てレース”。ここに全力を注いできていることは明らかだ。
そして、コンビを組むのもまた、リーディングジョッキー部門で首位を走る
ミルコ・デムーロ。勝てば史上3人目の8大競走完全制覇に王手がかかるのだから、こちらもやる気満々なのは言うまでもない。
今年の春の盾は、藤原英調教師×M・デムーロという今、最強の2人が手を組んだ
トーセンバジルの走りに注目している。
(栗東の坂路野郎・高岡功)
東京スポーツ