競馬界のレジェンド・
武豊(49)に言われたひと言でハッとした。果たして自分の仕事を「大好き」と言い切れる人は、どれくらい存在するのだろうか?
「よく“休みの日は仕事を忘れてリフレッシュ”って言うでしょ。ボクにはその感覚がまったくない。休日も常に仕事のことを考えていたいし、そもそも休みっていらんもん(笑い)」
そう話している間もムチを手にする。「ターフの魔術師」といわれたジョッキーを父に持ち、生まれたときから馬と接してきた。他の人が「努力」と思うことを「好きだから」やる。そんな姿勢を貫く
武豊は「野球界の天才」と重ね合わせてこう語る。
「尊敬するアス
リートですし、いつも刺激を受けていますよ。彼はとにかく野球が大好き。野球選手でいることが大好きなんでしょ。ボクも競馬が大好きだし、ジョッキーでいることが大好き。ああやって自分の職業を誇れる姿は見ていて気持ちいいし、カッコいいと思う。本当に勇気づけられますよ。もっとボクも頑張らなアカンなって」
言うまでもないが、
マリナーズの会長付特別補佐に就任した野球界の伝説・イチロー(44)のことだ。2人の天才は驚くほど仕事への向き合い方が似ている。目の前のやるべき課題を一つずつ丁寧に積み重ね、誰もマネできない大記録を次々と打ち立ててきた。
1990年代に知り合い、今でもオフシーズンは食事に行く仲。「オフはチームが決まっていない状況だったので、さすがに連絡できなかった」という
武豊は、やはりイチローの去就が気になっていたようで、「ニュースを見たときはビックリしました」と漏らす。
「最低50歳まで現役」というイチローに対し、
武豊も「辞めた後の自分がまったくイメージできないし、次の仕事も考えていない」という。
そればかりか、今回のサプ
ライズ人事で“自然引退”もささやかれるイチローについて「今年は枠から外れてしまったけど、心の中では“来年はスタメン”って絶対に狙っていますよ。辞めた気なんてまったくないと思う。ボクには分かります」と、まるで自身の未来をオーバーラップさせるように言い切った。
偉大なる2人には常に「前人未到」「最多」「史上初」といった冠がつく。イチローは前人未到の日米通算4367安打、
武豊も2016年に海外・地方合わせて4000勝を達成した。もちろん、今週の
オークスにしても、勝てば「現役単独最多」となる4勝目だ(93年
ベガ、95年
ダンスパートナー、96年
エアグルーヴで制覇)。
騎乗馬は
桜花賞5着の
マウレア。
アーモンドアイ、
ラッキーライラック、
サトノワルキューレという「3強」の壁は分厚く、手ごわい。しかし、これまでも不可能といわれた状況で、我々の想像を超越してきた。くしくも前回、
マウレアに騎乗した際は
中央競馬「史上初」の2万1000回騎乗という
メモリアル。何かやってくれそうなムードが…。
「
オークスはやってみないと、どんなレースになるのか分からない。すべての流れがこの馬に向けば」
そう言ってさっそうと調教へと向かった背中を見て思った。彼のイチローへの言葉をそのまま当てはめれば、“本音”が分かると…。
オークスは強豪相手だけど、心の中では“1着”って絶対に狙っている。負ける気なんてまったくないと思う。記者には分かります。
(童顔のオッサン野郎・江川佳孝)
東京スポーツ