夏の北海道シリーズに滞在し続けた記者は、GIII
札幌2歳S(9月1日=札幌芝1800メートル)ではまったくキャラの異なる2頭に注目している。
まずは
ラブミーファイン。函館芝1800メートルで新馬戦を勝ち上がりながらも、次戦に選んだのはGIII
函館2歳S(函館芝1200メートル)。常識的には受け入れがたい臨戦過程だったことは、7番人気の低評価に表れている。そこでハナ差2着の大接戦を演じ下馬評に反発すると、今度は本格的に短距離路線へかじを切るでもなく、すぐさま1800メートルの当レースに出走してくるのだから、まさに「規格外ローテ」と言っていい。
「もともとは血統的なことも踏まえて短距離戦線でのローテを予定していたんだけど、先々のことを考えて1800メートルでのデビューにしてもらったんだ。
2戦目は
コスモス賞(札幌芝1800メートル)と一旦発表した後に、オーナーの意向で
函館2歳Sを使うことになったわけだけど。1200メートルにも対応できる自信はレース前からあった」
ここまでの経緯を説明してくれたのは
ラブミーファインを担当する杉山助手。2007年の勝ち馬
オリエンタルロックも担当していた腕利きで、かつ“
札幌2歳Sの勝ち方を知る男”はこう持論を展開する。
「まったく流れの違うレースを経験しているのは強みだよね。新馬戦は流れが遅くても我慢が利いたし、
函館2歳Sでは速い流れにも対応できた。将来的な距離適性はともかく、2、3歳戦のうちは本質的な適性よりも、操縦性が何より重要なんです。それに調教で走り方は教えられても、特に多頭数のレースは実戦でしか経験できないからね。
この馬は普段から他馬に無駄な反応をしないメンタルの強さがある。(牡牝で分けられるケースが多い)牧場時代は牝馬のなかでボス的な存在だったんじゃないかって思わせてくれる」
ちなみに前出
オリエンタルロックはデビュー4戦目での戴冠。今年は
ラブミーファインの“異色の経験値”がモノをいうことになるのか…。
一方、“正統派路線”では
ウィクトーリアが真っ先に挙がる。通常なら最も傷んだ馬場状態のはずの函館開催最終週の芝1800メートル新馬戦で1分48秒3のレコードV。しかも当時は美浦から函館入りする際の長距離輸送で熱発し、現地で1週前追い切りを消化できない中で迎えたデビュー戦だった。
「積極的に行った結果とはいえ、レコードで勝ってしまうんだから、そこは能力の高さなのかな。ただ今回も同じように逃げるのか、それとも控えるのか…そこは難しくなった」とは小島調教師。
14年の勝ち馬
ブライトエンブレムほか、上に活躍馬の多い血統背景からも高い支持を集めるのは間違いない。逃げに打って出れば当然、目標にされることになるだろう。「もう少しレースを楽しめる立場で臨みたかった」と小島調教師は苦笑いするが、「枠順次第ではあるけど、時計を持っている以上はある程度、前々で。少なくとも他馬に邪魔をされない競馬をしないと、もったいないよね」。絶対的なスピードの裏付けがある
ウィクトーリアの持ち味を最大限に生かしたい考えだ。
ちなみに札幌ダートでの1週前追い切りでパートナーに
藤田菜七子を“指名”。「(体重が)軽いし、姉(
マルーンエンブレム=
JRA女性騎手最多勝記録を更新した翌日に騎乗して勝利)にも乗っているからね。それに今、本人も勢いに乗ってるから、分けてもらおうと思って」と小島調教師は決して冗談とは取れない、真剣なまなざしを向けた。
果たして異色の経験を武器に伏兵がタイトルをもぎ取るのか、それとも正統派が勝つのか。夏の2歳戦を締めくくる大一番が今から熱い。
(松浪大樹)
東京スポーツ