最後も飛んだ-。平成時代の
有馬記念名勝負を振り返る「平成有馬列伝」。
クリスマス・イブに行われた平成18(2006)年の
有馬記念は
ディープインパクトが有終Vで花道を飾った。
◇ ◇
後方のポジションはすっかり定番。末脚を信頼する主戦が淡々とラップを刻む。3コーナーからが真骨頂だ。一気の
ギアチェンジでスパートすると、ファンの熱い視線が主役を追う。438キロの小さな体。一瞬の接地で、芝から四肢が全て離れる。滞空時間の長い独特の走りで、前を一気にのみ込むと、並ぶ間もなく抜け出した。上がり3Fは圧巻の33秒8。異次元の脚だ。
「驚いた。ものすごく強かった。こんな感覚を味わったことがない」。デビューから全14戦。その背に乗り続け、パートナーを熟知する
武豊でさえも、舌を巻くほどの衝撃だった。
1年越しのリベンジでもあった。史上2頭目となる無敗の三冠達成。ただ、3歳で挑戦した
有馬記念(05年)は、小回りを味方にした、
ハーツクライの絶妙な立ち回りに屈して2着と苦杯をなめた。過去の歴史でも、数々の名馬が思わぬ形で敗戦を喫した、紛れのある中山2500メートル。それでも、2年続けて負けるわけにはいかなかった。単勝支持率70・1%は
有馬記念史上、57年
ハクチカラ(76・1%)に次ぐ2位。史上最強の“小柄な怪物”は、その思いに応えた。
今は、惜しまれながら去ったディープの血を継ぐ多くの産駒たちが、ターフを沸かす。あの日から12年-。
武豊は振り返る。
「負けられない。負けてはいけないレースだった。自信がそこまであると緊張もしなかった。最後だと思って味わって乗ったよ」
背中と躍動感。そして、見える景色を存分に楽しんだ余裕のフィナーレだった。
提供:デイリースポーツ