充満したエネルギーをあえて封じ込め、淡々とハロン棒を通過していく。悪夢の
桜花賞から1か月余り。単勝1.6倍で9着に散った
ルージュバックの放つ反撃の一手が、静かな走りに凝縮された。派手さはなくとも、強い信念を感じさせる最終リハだ。
スタンド前から美浦Wに入り、はるか前方の
ダノンウルフ(3歳未勝利)をゆったりと追走。ようやくペースアップしたのが残り4F過ぎ。6〜7馬身の差を徐々に詰め、直線は内から末脚を伸ばす。前脚を叩きつける独特の走法で、4F52秒9-37秒0-11秒7をマーク。最後まで馬なりのままで半馬身先着を決めた。
「全体の時計は出さず、最後の3Fをどういうふうに上がってくるのか。はじけ方は良かったですね」と大竹師はうなずく。同じく美浦Wで5F65秒0の超抜時計をマークした
桜花賞時とは一転し“静”の姿勢で終えた最終追い切り。「馬の能力を出せれば、と思っているんです」。フレッシュさを最重要視する策が、陣営の導き出した答えだ。
柔軟な思考で逆転へのシナリオを練った。前走後は福島県のノーザンファーム天栄へ放牧。週1回のペースで牧場を訪れている指揮官はひとつの決断を下す。「天栄でやっている時の目の輝き。活気があって良かった。ギリギリまで向こうで調整してもいいのではないか」。美浦トレセンへの帰厩はレースの12日前。GIでは異例の直前入厩が、調整法の大胆なモデル
チェンジの象徴だろう。
「
桜花賞の敗因をひとつに求めるのは難しい。ただ大きな原因は僕自身の経験不足」。初距離、空前のスローペース。考え得る要素を全てシャットアウトし、45歳の新鋭トレーナーは敗戦を一身に背負う。負けてもなお、オーナーサイドは
凱旋門賞(10月4日・ロンシャン、芝2400m)の一次登録を済ませた。誰もが認める世代トップクラスのポテンシャル。大観衆が集う4日後の府中まで、その輝きは取っておく。
提供:デイリースポーツ