他のレースにはない、独特の雰囲気に包まれる「ダービーデー」の東京競馬場。初めてダービーに騎乗する騎手などは、そんな“非日常”の空間にのまれてしまうことが少なくないし、厩舎関係者にしても、それは基本的には同じだろう。
ただ、馬と最も身近に接する厩務員にとって、そこまでダービーの経験値が必要かとなると、レースの特殊性ゆえ、案外そうでもないのではないか、という気がする。
印象深かったのは2014年にダービーを勝った
ワンアンドオンリー担当の甲斐助手がレース前に発したこんな言葉だ。
「ダービーに担当馬を出走させるのは初めて。でもダービーの怖さを知らないから、その分、
リラックスしていける」
橋口弘次郎元調教師の悲願であり、ダービーを勝つラストチャンスと言われたあの年。取材攻勢もシ烈を極めた中で、甲斐助手が自然体で馬と接することができたのは、ダービーの重みを知らなかったゆえ、という一面もあったのではないか。
今年の
青葉賞をレコード勝ちして一躍、ダービー馬候補に名乗りを上げた
アドミラブル。担当の蛭田助手はさぞ、プレッシャーのかかる日々を送っているのだろうと思っていたのだが、案外そうでもなかったという。
「デビュー戦は松若が乗って、ノドを鳴らして惨敗。引き揚げてきた時に一度はあきらめた馬ですから…。そこから(ノド鳴りの)手術をして復活する馬も決して多くはない中で、ここまで走ってくれて、ダービーにも出走できる。それだけですごいことだと思うし、だからこそ、そこまでプレッシャーを感じることはないんです」
かつて
リンカーン(03年9番人気8着)、
ヴィクトリー(07年2番人気9着)でこの舞台を経験している蛭田助手だが、1番人気に支持されるかもしれない今年が、意外にも一番
リラックスして臨めるのかもしれない。
(栗東の坂路野郎・高岡功)
東京スポーツ