ソールオリエンスが豪快に差し切り、幕を開けた今年の牡馬クラシック。迎える
日本ダービー(28日=東京芝2400メートル)は
皐月賞組が優勢なのはもちろん、1強ムードとなったことにも異論はないが…。
クラシック開幕前の下馬評では「群雄割拠の戦国模様」とされたのはなぜなのかをもう一度、思い返してもらいたい。それは勢力図を形づくるうえで最も重要な
JRA2歳GIの勝者2頭、すなわち
朝日杯FS=
ドルチェモア、
ホープフルS=
ドゥラエレーデ陣営が、ともに早々と
皐月賞への出走を見送ることを発表したからに他ならない。
ドルチェモアのマイル路線専念プランが大方の予想を裏切らないものであったのに対して、クラシックディスタンスに直結するGIを勝ちながらも「
ケンタッキーダービーを大目標とする海外遠征を決行する」とした
ドゥラエレーデの発表は驚きをもって迎えられ、時代の趨勢を感じさせる“異例のローテーション”と評されもした。
そもそもがダートより、芝での勝利に重きが置かれるのが国内の
中央競馬。ダートの未勝利戦で初勝利を挙げた
ドゥラエレーデが、
ホープフルSで14番人気という低評価に甘んじたのも仕方のないところか。そして見事にGI制覇を成し遂げた後ですら「馬場と展開に恵まれた勝利」との評価が一部にはあった。それを逆手に取ったかのような世界に打って出る大胆プランを決断するまでの経緯は誰もが気になるところだろう。
「ダートをこなすパワーがあるうえに、芝でも走れるスピードも兼備した馬ですから。それで
ホープフルSを勝った後は
ケンタッキーダービーを目標として、まずUAEへと遠征することになりました」
池添調教師は馬の個性を生かすのに最良の舞台を求めての「二刀流挑戦」であったことを説明する。ただ、二刀流で同時に最大の成果を挙げることはたやすいものではなく、UAEダービーは同じ日本馬でダートを主戦場とする
デルマソトガケに大きく離された2着に終わった。
「日本とはダートの質が違ったこともあり、レース後に球節を痛めた様子を見せて…。無理はしないで日本へ帰国することになりました。着地検疫の段階で腫れなどは治まり、そこから放牧先でケアをしてもらって。国内のダービーに向けてなら調整に十分な時間もあることで、目標をここへと切り替えました」
夢半ばでの帰国とはなったものの、そこからの順調な回復ぶりもあって、当初は予定になかった
日本ダービーへの出走がかなったというわけだ。
依然、
ホープフルSのレースレベル自体を疑う声は大きいし、ましてアク
シデントがあってのローテ変更による参戦。おそらく
ドゥラエレーデの評価はGI優勝馬としては驚くほど低いものとなるだろう。
しかし、「一つのことに専念すべき」という周囲の声にも動じることなく、世界に目を向けて常識を覆したからこそ、「二刀流」に価値があることを希代のプロ野球選手が今もって証明してくれているのは紛れもない事実である。
「異例のローテなどといわれますが、僕自身はこの馬の可能性を信じている。楽しみを持てる状態に仕上げて、ダービーへと挑戦したいですね」
大胆なチャレンジで
皐月賞組にはない経験を積んだ
ドゥラエレーデが、一世一代の大舞台で再び周囲を驚かせる走りを見せてくれることを期待せずにはいられない。
(栗東のバーン野郎・石川吉行)
東京スポーツ