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中山競馬場の新ターフビジョン導入について

  • 2009年03月12日(木) 23時59分
 今年秋の開催から、中山競馬場に“ハイビジョン対応2面マルチ”の新ターフビジョンが導入されるそうです(※注1)。サイズは、すでに設置されている東京、京都のものに比べていくぶん小さめですが、それでも横幅は40.8m。今あるゴール板後ろのターフビジョンの倍以上になるとのことです。中山のターフビジョンはスタンドに近いところにありますから、この秋以降は迫力あるクリアな映像でレースを楽しめそうですね。

▽参照(JRAホームページ)
http://www.jra.go.jp/news/200903/030901.html

 でも、ちょっと待ってください。スタンド5階にあるテレビ東京の実況席からは、向正面の芝内回りコースとダートコースの一部がターフビジョンの陰になって見えません。実況アナウンサーにとって、とくに厄介なのがダート1200m戦。スタートして200mほど進むと、馬群がターフビジョンの向こう側に隠れてしまい、中団の馬の位置取りを確認するのが難しくなります。

 そこで私は、

1.双眼鏡でスタート直後の先行争いを見る
2.ターフビジョンにさしかかるあたりでモニターに目を移して中団をさばく
3.再び双眼鏡で後方集団を追う

 という手順で実況するようにしています。3で再び双眼鏡に戻るのは、中山の3コーナー手前では内馬場のスタンドがカメラの視野を遮るので、アップで馬群を映せない(=“引き”の画面にスイッチしなければならない)から。でも、すべてのレースで1〜3の作業をスムーズにこなせるとは限りません。

 ダート1200m戦でスタートしてから200mのあたりだと、いまだに先行争いが横並びで落ち着かず、その後ろの中団もひとかたまりの大混戦、なんていう展開はいくらでもあります。そういう時、前の争いを我慢して追いかけるか、それとも、思い切って中団に目を移すか。レースは生き物ですから、その判断は臨機応変にするしかありません。そこに、ターフビジョンが立ちはだかるわけです。

 見たいところが見えない、というのは、ハッキリ言ってストレス。恥ずかしながら実況のリズムを崩してしまうこともしばしばあります。なるべく違和感のないように喋っているつもりですが、何年やっていても、中山ダート1200m戦はハラハラの連続です。

 今でさえそうなんですから、さらに幅の広い新ターフビジョンができて、見えない部分が増えたら、いったいどうなっちゃうんでしょう? スタンド5階には、テレビ東京だけでなく、フジテレビ、ラジオ日本、ニッポン放送などの放送席もズラリと並んでいます。他社の実況アナウンサーにとっても、これは由々しき問題だと思うのですが。

 唯一、ラジオNIKKEIの放送席だけは、われわれよりワンフロア上の6階にあって、ターフビジョンに遮られることなく向正面を見渡せるそうです。なので、ラジオ日本の競馬中継に時々登場している宇野和男アナウンサーは、ラジオたんぱの局アナだった時に、「中山のダート1200m戦がいちばん喋りやすい」と言っていました。

 確かに、中山の向正面の近さは福島並み。遮るものがなければ、馬群はよ〜く見えるでしょう。何ともうらやましい限りです。われわれの実況席も6階に移転させてもらえませんか? いや、その昔は屋根の上で実況していた局があったそうですから、いっそのこと“屋上特設放送席”にしてくれちゃってもいいですよ(それはそれで怖いとか、夏は暑くて冬は寒いとか、文句が出そうですね)!

 ダート1200m戦だけでなく、中山大障害や中山グランドジャンプのハイライト、大竹柵&大生け垣障害も、新ターフビジョンの陰に隠れてしまいそうです。そのあたりもモニターを見ながら喋るしかないんでしょうが、少々不安です。落馬があったのに、モニターの映像はその先のレースを追っていて、どれが落馬したか、なかなか確認できない、なんていうことがありそうで。

 まぁ考えてみれば、双眼鏡で見えないところをモニターで見て喋るというのは、新潟の外回り戦や直線1000m戦でやっていること。海外、とくにヨーロッパには、スタンドから(もちろん、実況席からも)コースの一部が見えなくなる競馬場なんて、いくらでもあります。

 そうそう、大阪ドームの放送席や記者席には、椅子にドッカリ座るとバッターボックスを含めたホームベース周辺が見えなくなるところがありますし、大井競馬場のそばにある大井ふ頭海浜公園第二球技場の放送席(ここで社会人アメフトを実況しました)は、フツウに座ったらグランドが見えない(床に台を置いて、その上に椅子を載せて座ればようやく見渡せる)という、とんでもない構造になっています。海外の競馬場は別として、“試合が見えない放送席”なんて、誰が何を考えてそんな設計をしちゃったんでしょうか?

 それはさておき、JRAのホームページに公開された“イメージ”を見ると、中山に新ターフビジョンを設置するには、今のターフビジョンの横(正面スタンドから見て左側)にある向正面撮影用のテレビカメラ席を移転させる必要がありそうです。そこで、この場を借りてJRAにお願いさせていただきます。向正面から3コーナーにかけてと2つの大障害を映すカメラを“いいところ”に置けるよう、ぜひ配慮してください。なにせわれわれにとっては、モニターだけが頼りなんですから。

 ただ、自社のモニターを見て喋れるテレビのアナウンサーはそれでいいとして、ラジオのアナウンサーは新ターフビジョンか手元の場内映像を見て喋ることになりそうです。自分の喋りを、場内の実況(ラジオNIKKEI)に連動しているカメラの映像に合わせなければならない、っていうのもタイヘンだと思いますよ。えっ、「オレは大丈夫。そんな心配してるのはオマエだけだ」って? それはどうも、失礼致しました。

 ともあれ、ファンのみなさんは、新ターフビジョンの登場を大いに楽しみにしていただいて結構です。きっと、中山競馬場の風景が大きく変わるんでしょうね。

 さて、中山牝馬Sはハチマンダイボサツ、フィリーズレビューはチャームポットで穴狙い。ばんえい競馬・イレネー記念の予想はばんえい競馬情報局(※注2)でどうぞ。また、29日に行われるばんえい記念の観戦ツアーは、日通旅行のサイト(※注3)から申込可能です。どうぞよろしく。では、また来週!

▽参照(ばんえい競馬情報局)
http://blog.oddspark.com/baneiinfo/

▽参照(日通旅行)
http://travel.nittsu.co.jp/sports/tokyo/horse_race/banei41/index.html

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テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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