BCジュヴェナイルを制した全米2歳王者ミッドシップマンが故障で戦線を離脱し、主役不在の混戦が続いていた北米のケンタッキーダービー戦線だが、本番まで4週間を切って、ようやく勢力分布の骨格が明確になってきた。トップグループを形成するのは、クオリティロード、フリーサンファイア、アイウォントリヴェンジ、パイオニアオブナイルの4頭である。
ガルフストリームパークのG2ファウンテンオブユースS、G1フロリダダービーを連勝し、フロリダ地区の代表馬となったのがクオリティロード(父イルーシヴクオリティ)だ。
母コブラが97年の全米3歳牝馬女王アジーナの1歳年下の全妹で、コブラもアジーナも、そして彼女らの母ウィングレットも、故アラン・ポールソン氏の生産馬という牝系のクオリティロード。コブラが99年のキーンランド・ノヴェンバーに上場された時、105万ドルを投資して彼女を入手したのが、クオリティロードのオーナーブリーダーであるエドワード・エヴァンス氏である。
2歳11月にアケダクトのダート6.5fのメイドンでデビュー。ここを圧勝して101という非常に高いベイヤー指数を得て注目を集める存在となったが、年明けに走った2戦目の一般戦で2着に敗れ、1月24日に締め切られた3冠の第一回登録ではエントリーを見送ることになった。ところがその後、ファウンテンオブユースSとフロリダダービーを快勝。フロリダダービー当日に締め切られた第2回登録で、6千ドルを払って追加登録されることになった。
ファウンテンオブユースSとフロリダダービーは、いずれも好位から抜け出す安定したレース振りで、それぞれ2着馬に4.1/4馬身、1.3/4馬身の差をつける完勝。ことにフロリダダービーはトラックレコードを樹立しての圧巻の勝利で、10fの距離さえ問題にしなければ、KYダービーに最も近い存在と言われている。
今年に入ってルイジアナ州のフェアグラウンズで、G3ルコントS、G3リズンスターS、G2ルイジアナダービーと、重賞3連勝を飾っているのが、フリーサンファイア(父エーピーインディ)だ。
トム・サイモン氏のヴァイネリー・ステーブルが傘下に持つ生産組織グレイプストックの生産馬で、ヴァイネリーと、リック・ポーター氏のフォックス・ヒル・ファームが共同所有するフリーサンファイア。豪州産の母ボリンジャーはG1クールモアクラシック勝ち馬で、同じく豪州産の祖母ビントマースケイはG1ゴールデンスリッパーSを勝った2歳チャンピオンという、豪州の名門血脈を背景に持つ馬である。
2歳時の成績4戦1勝。G2フューチュリティS・3着、G3ナシュアS・4着と、重賞戦線でもそこそこの活躍を見せていたが、3歳を迎えて馬が大きな成長を見せ、前述したように重賞3連勝。殊にルイジアナダービーでは2着以下に7.1/4馬身の差をつける圧勝劇を演じ、中部地区代表としてKYダービーに向かうことになった。
アケダクトのG3ゴーサムSとG1ウッドメモリアルSを連勝して、東海岸を代表するかたちとなったのが、アイウォントリヴェンジ(父スティーヴンゴットイーヴン)だ。代表する「かたち」と持ってまわった言い方になったのは、元来は西海岸を本拠地とする馬だからだ。カリフォルニアのトップトレーナーのひとり、ジェム・ムーリンズの管理馬として2歳7月にハリウッドパークのオールウェザー5.5fのメイドンでデビュー。未勝利を脱するのに4戦を要したが、その後G1キャッシュコール・フューチュリティ2着、G2ロバートルイスS・3着という成績を残し、超一流とは言えないまでも、この世代の西海岸勢にあってトップグループの一角を占める存在と認識されるようになった。
だが、そうした評価に満足しなかったのがムーリンズ師で、ロバートルイスSの後にアイウォントリヴェンジの東海岸遠征を決断。オールウェザーよりはダートの方が合うはずという師の思惑がズバリと的中し、初ダートとなったG3ゴーサムSを8.1/2馬身差で圧勝。さらにG1ウッドメモリアルSを1.1/2馬身差で快勝し、KYダービー戦線の主役の1頭に躍り出た。
01年の全米スプリントチャンピオン・スクワートルスクワートらの馬主として知られるデヴィッド・ランズマン氏の自家生産馬アイウォントリヴェンジ。昨年春のバレッツ・マーチセールに上場したのだが、リザーブに届かず主取りになったことが今、ランズマン氏に大きな幸運をもたらそうとしている。
一方、ケンタッキーダービーがダート馬場における初めての競馬となりそうなのが、アーメド・ザヤット氏の自家生産馬パイオニアオブザナイル(父エンパイアメーカー)だ。
2歳10月までは東海岸のビル・モット厩舎に所属し、4戦1勝の成績を残したパイオニアオブザナイル。敗戦のうち2つは、G1ブリーダーズ・フューチュリティ3着、G1・BCジュヴェナイル5着だから悪くない成績だったが、その後西海岸のボブ・バファート厩舎に転厩して、馬が一変した。移籍後、G1キャッシュコール・フューチュリティ、G2ロバートルイスS、G2サンフェリペS、G1サンタアニタダービーと、破竹の4連勝。押しも押されぬ西海岸最強馬となって、KYダービーに向かうことになった。
モット厩舎時代の4戦は、2戦が芝で2戦がオールウェザー。西海岸移籍後の4戦は言うまでもなく全てオールウェザーだから、ここまでダート未経験。バファート師にとって4度目のKYダービー制覇なるかどうかは、ひとえに、チャーチルダウンズの馬場に適性があるかどうかにかかっていると言えそうだ。
アイウォントリヴェンジ同様にこの馬も、1歳時にキーンランド・セプテンバーに出て、主取りに終わった経緯をもっている。
この後、4月11日にキーンランドで行われるG1ブルーグラスS、同日オークローンパークで行われるG2アーカンソーダービーといった前哨戦を経て、本番を迎えるKYダービー。その行方に注目したい。
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