5月4日「かきつばた記念」(名古屋)、5日「かしわ記念」(船橋)と交流重賞の組まれた今年の大型連休。名古屋ではスマートファルコンが重賞5連勝を達成し、船橋ではエスポワールシチーが前走のマーチSに続いて重賞2連勝を果たした。周知の通り、ともにゴールドアリュールの初年度産駒で、ダート巧者ぶりを遺憾なく発揮した勝利と言える。
ゴールドアリュール産駒はこのところ絶好調だ。2日(土)の東京競馬場ではダービートライアル「第16回青葉賞(GII)」が行われ、トップカミングが粘りを見せ3着に入り、見事に本番への優先出走権を獲得した。この馬の戦績を振り返ると、ほぼ毎回きっちりと馬券に絡む粘り強さが光る。昨年8月にデビュー以来、これまで休みなく11戦を消化してきたが、掲示板を外したのは4戦目となった「デイリー杯2歳S」の7着のみ。何といっても、年明け早々の「シンザン記念」から先日の「青葉賞」まで重賞に3回連続で3着に突っ込んできているのは大したもの。重賞レースの度に入着しているので、11戦2勝だが、2着2回、3着5回。収得賞金は6900万円に達する。
トップカミングの生産者は浦河・木戸口牧場。当主の篤夫さん(53歳)と直子夫人の2人で切り盛りする小規模牧場だ。繋養する繁殖牝馬は6頭。トップカミングの当歳から1歳時を振り返って篤夫氏は「細くて小さな馬でした。まさか、こんなに走るとは…」と驚いている。
木戸口牧場にとって生産馬のダービー出走は、ロングミラー以来28年ぶりである。ロングミラーは、昭和53年生まれ。当時新種牡馬として期待されていたツイッグの産駒で、小倉デビュー。2戦目に勝ち上がりあっという間に3連勝し、一躍注目される存在となった。
翌年3月の「毎日杯」でも3着に入り、東上緒戦の「皐月賞」では11番人気ながらカツトップエースに0.1秒差の2着と好勝負を演じた。当然のことながら、本番の「日本ダービー」では2番人気まで押し上げられることとなったが、残念ながらこの時には12着に敗退している。
木戸口牧場の生産馬としては、それ以前にも、ハイセイコーと同じ世代のホウシュウエイトがダービー4着という成績を残している。多くの生産者にとって、ダービーは“究極の目標”だが、もちろん木戸口牧場にとってもそれは同じことだ。
さて、もう1頭、今度は「オークス」を目指すディアジーナについて書く。こちらはメジロマックイーン産駒で、すでに重賞を2つ制している。とりわけ前走の「フローラS」は、本番と同じ東京コースで初めてとなる2000mを経験したが、父系の血統からもむしろ距離の延長は望むところだろう。牝馬路線もまた昨今は“社台包囲網”の中での戦いを強いられることになっているが、今の調子ならば本番の舞台で、十二分に実力を発揮できるものと思われる。
ディアジーナもまた、浦河の小規模牧場で生まれた。生産者は南部功氏(52歳)。道子夫人と2人で営む繁殖牝馬4頭の牧場である。ディアジーナの母系は社台のシヤダイターキンに遡るが、メジロマックイーンに母父ビショップボブといういかにも渋い配合から、こんな強い牝馬が誕生したことに正直なところ驚きを禁じ得ない。
同馬を育成したディアレストクラブ・イーストの場長・山田和哉氏は「とにかく体力のある馬で、稽古でもへこたれることなくメニューを精力的にこなしてくれた馬だった」と振り返る。6月生まれながら、2歳6月に函館でデビューできたのもそうした基礎体力の強靭さの表れと言って差し支えあるまい。
南部功氏にとって、サラブレッドの生産馬が中央の重賞を制覇したのは初めてのこと。まして、クラシックとなると、未知の世界である。しかし、現時点では、前記トップカミングのダービーよりも、こちらの方が可能性としては高そうだ。
かつてクラシックと言えば、ほぼ日高の中での争いだけで決着していた時代があった。ロングミラーの年、皐月賞とダービーを制したカツトップエースは様似・堀忠志氏の生産馬だ。その翌年のダービーはバンブーアトラス(浦河・バンブー牧場)、さらにその翌年のミスターシービー(浦河・千明牧場)と続く。
それだけでなく、当時は出走頭数も今とは比較にならぬほど多かった。日高の生産者にとって、クラシックは今ほど遠い存在ではなかった。勝てぬまでも、出走すること自体はそれほど高いハードルではなかったのである。
28頭もの出走枠のあった当時と、18頭しか出られない現在とでは、出走することの意味がかなり違ってくる。まして、社台グループの出走頭数がどうかすると半分を占めるような今の時代に、クラシックに駒を進めることがどれほどの難事となったことか。
決して一流とは言い難い血統の両馬は、言うならば、日高の主流を占める家族経営の小規模生産者の“希望の星”でもある。どうか本番まで無事に日を送り、晴れ姿を見せて欲しいと願わずにはいられない。