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欧米両大陸で重賞勝ち馬が出た2頭の種牡馬

  • 2009年07月07日(火) 23時59分
 7月5日(日曜日)、大西洋を挟んだ両大陸で産駒が快走し、世界の競馬サークルにホットな話題を提供したのが、ダイナフォーマーとスパイツタウンである。

 ケンタッキーのスリーチムニーズ・ファームで供用されているダイナフォーマーは、1985年生まれの24歳。ケンタッキーダービー馬バーバロ、英セントレジャー勝ち馬ルカーノらを筆頭に、欧米両大陸で活躍馬を輩出し、既に押しも押されぬトップサイヤーとしての地位を確立している馬である。

 5日は、まずドイツのハンブルグ競馬場で、産駒のウィーンワルツ(牡3歳)が独ダービーに出走。前哨戦の1つ・G2ウニオンレネンを勝って臨んだウィーンワルツは2番人気だったが、後方でもがく1番人気のスエスタドを尻目に、直線早めに抜け出して快勝した。

 ウィーンワルツは、ドイツ有数の名門牧場シュレンデルハンの自家生産馬。母ヴァイゼルケーニッヒンもシュレンデルハンの所有馬として走り、フランクフルトのG2ユーロCやサンシロのG2エミリオトゥラティ賞を制した後に渡米。ベルモントのG1フラワーボウルSで2着となるなどの成績を残した後、そのままケンタッキーで繁殖入りし、ダイナフォーマーを受胎した後にドイツに戻って産んだのが、ウィーンワルツである。シュレンデルハンの生産馬がドイツダービーを勝つには、実にこれが19度目であったが、シュレンデルハンは6月1日にオーナーのカリン・フォン・ウルマン男爵夫人が87歳で他界したばかりで、先代への手向けのダービー制覇となった。

 同日、アメリカ西海岸のハリウッドパークで行われたG1アメリカンオークス。これを制したのも、ダイナフォーマー産駒のゴジップガール(牝3歳)だった。前走、前哨戦のG2サンズポイントSを逃げ切って臨んだゴジップガールだったが、ここは一転して後方から直線で素晴らしい瞬発力を発揮しての優勝だった。

 これでデビュー以来の戦績を8戦5勝としたゴジップガール。07年のキーンランド・セプテンバーセールで6万ドルで購買された馬が、既に70万ドルの賞金を収得したのだから、馬主さんにとっては笑いが止まらぬところだ。

 欧米両大陸で同じ日に3歳G1勝ち馬を出したダイナフォーマーは、ロベルトの直仔である。すなわち、日本適性抜群と言われているサイアーラインに属するトップサイアーなわけだが、なぜか日本ではこれまで1頭たりとも重賞勝ち馬を出していない。

 ちなみに、ウィーンワルツもゴジップガールも、母の父はキングマンボだ。この配合からは、G1ヨークシャーオークス2着馬オーシャンシルクも生まれており、相性の良さは証明済みだ。キングマンボもまた、言わずと知れた日本適性の高い種牡馬だけに、今後この配合の馬が日本にやってきたら、POG的に要注意であろう。

 さて、5日に2大陸で産駒が活躍したもう1頭の種牡馬、スパイツタウン。

 アメリカで輝いたのが、ベルモントパークで行われた7fのG2トムフールHで、古馬を粉砕して優勝したマニングス(牡3歳)である。

 08年のファシグティプトン・コールダー2歳トレーニングセールで170万ドルという、セール2番目の高値で取引された馬と言えば、あの馬かと思いだされる読者もおられよう。2歳時には、G1シャンパンS・2着、G1ホープフルS・3着と惜しい競馬が続いたが、前走ベルモントのG2ウッディースティーヴンスSで重賞初制覇。そしてここも勝って重賞連勝と、すっかり軌道に乗ったようである。

 現役時代、BCスプリントを制して全米スプリントチャンピオンの座に輝いたスパイツタウンにとって、マニングスは初年度産駒の1頭になる。マニングスに限らず、昨年春に全米各地で行われた2歳セールで、馬体は筋骨逞しく、追い切りでも好時計連発で、おおいに話題となったのがスパイツタウン産駒だった。つまりは、父に良く似た子を出すスピード偏重型の種牡馬で、その典型がマニングスということになるのであろう。

 日本にも少数ながらスパイツタウン産駒が導入されているが、現在のところ目立った活躍は見せていない。ダートの短距離を主戦場とし、武骨で器用さに欠く面があったスパイツタウンだけに、日本には不向きかとの声も出始めていたのだが、そんな評価を覆す出来事が起きたのが、同じ7月5日のヨーロッパだった。

 同日、フランスのシャンティイ競馬場で行われた1600mのG1ジャンプラ賞を、スパイツタウン産駒のロードシャナキル(牡3歳)が制したのである。

 叔母に芝のG1イエローリボンS勝ち馬スパニッシュファーンがいるという血統背景から、英国でデビューすることになった同馬。2歳時から既に、G2ミルリ−フSに勝ち、G1デューハーストS・2着といった成績を残し、芝適性を存分に発揮していた。

 今季は、緒戦の英2000ギニーこそ大敗したものの、前走ロイヤルアスコットのG1セントジェイムズパレスSで3着に好走。上昇カーブを描いてフランスに遠征し、見事にG1初制覇を果たすことになった。

 ロードシャナキルは、母の父がシアトリカルで、祖母の父がブラッシンググルームと、母系に流れる血はほぼ完璧なヨーロピアンだ。つまりはこういう配合であれば、父スパイツタウンでも芝での活躍馬が出ることが証明されたわけで、日本の競馬関係者にとってもロードシャナキルは、有用なサンプルになったと言えそうだ。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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