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八戸“星”市場

  • 2009年07月08日(水) 00時01分
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 7日、青森県で「八戸市場」が開催された。七夕にちなんで「“星”市場」と名づけられた今年の八戸には、青森県内を中心に64頭の1歳馬がエントリーしたものの、4頭が欠場し、最終的に60頭が上場された。北海道を前日深夜にフェリーで出発し、7日午前7時半に八戸港到着。同じ便に、顔見知りが何人も乗船しており、ほとんど八戸市場へ向かう面々である。

 北海道から八戸まで行くルートは大きく分けて3通りあり、1つはこの苫小牧~八戸までのフェリー便(川崎近海汽船)。1日4往復出ていて、日高から行く場合には最もこれが便利かも知れない。車とともに乗り込む場合には、ドライバー1人分の料金(2等)を含め、乗用車4m以下で18000円、5m以下で22500円である。車なしで乗り込む場合には、2等(雑魚寝)が最も安く片道4500円。ただし、寝心地は良くない。所要時間は約8時間。

 さもなくば、千歳~三沢間の航空便。もしくは、JR列車ということになる。いずれも現地に到着してからの足を確保するのが結構大変で、しかも料金はフェリーに比べると当然割高である。

 幸い、今回は船中で知人に遭遇したため、会場の「八戸家畜市場」まで便乗させてもらった。フェリー埠頭から三戸郡南部町の家畜市場まではおおよそ30分弱くらいの道のりだが、何度行っても道が分かりにくい。案の定今回初めて八戸市場を訪れるという知人に見栄を張ってナビ係を買って出たものの、散々迷ってしまい大恥をかいた。

 さて、この日の八戸は、朝から夏の青空が広がる好天に恵まれた。気温はかなり高めで蒸し暑い。上場が60頭と少ないため、展示開始も午前10時とかなり余裕のあるスケジュールである。2004年に126頭を数えた八戸市場の上場頭数も、このところ年々減少し続けており、2005年には90頭、2006年には86頭、2007年には75頭、そして昨年は76頭と歯止めがかかったものの、今年はついに60頭である。5年間で半減したことになる。

八戸・展示風景 八戸・展示風景

 上場馬は県内生産馬を中心に北海道や宮城からの遠征組が10頭という構成で、内訳は牡36頭、牝24頭。地元青森で繋養されていたメジロベイリーやキンググローリアスなどの産駒が目立つ。

八戸・展示風景 八戸・展示風景

 午前10時。予定通り比較展示が開始された。ほぼ20頭ずつ、3組に分けての展示で、しかも25分ずつ時間を取ってある。十分過ぎるほどの余裕で、購買者にとってはじっくりと目当ての馬を絞ることができるメリットがある。しかし、かつて100頭を超えていた時代からすれば一抹の寂しさは拭えない。

八戸・展示後の速歩

 展示が終了する間際になると、20頭が並んで会場内を大きく右回りに2周する。そして、番号順に1頭ずつ「速歩」を披露して終わりである。毎年のことだが、ここでは多くの年配者がまだ現役で馬を曳いている。北海道ではスーツ姿の曳き手も珍しくないが、ここにはそんなファッションの人はいない。のどかというか、全てが懐かしさを感じる風景とでも言えば良いか。

飲食ブース

 12時に展示が終了した後、1時間の「昼休み」もあった。会場の一角に飲食ブースが設けられており、そこで焼きそば、おにぎり、カレーライス、お蕎麦が無料で配られた。飲み物もふんだんに用意されている。昨年、この市場は一気に売り上げを落としてしまい、今年はこれらのサービスもなくなっているのでは? と危惧していたが、杞憂であった。

 時折風が吹き抜けるものの、やはり暑い。予報によれば、この日の三八上北地方は午後に雷雨もありそうだという。展示の最中から徐々に曇り勝ちになってきて遠雷も聞こえる。天候の急変が心配された。

八戸会場風景 八戸会場風景

 午後1時ちょうど。予定通り、せり開始となった。八戸は上場馬が円形(正確には10角形)のパレードリンクを周回する。鑑定人は北海道市場でもおなじみの松橋康彦氏。それに浅野靖典氏(グリーンチャンネルなどに出演している)がアナウンサーとして補佐する。

松橋鑑定人と浅野靖典氏

 おそらくかなり厳しいだろうと予想していたこの市場だったが、最初こそ低調ムードだったものの、中ほどより徐々に声がかかり始め、安いとはいえ次々に売れている印象である。事前の情報では60人を超える購買者登録があったという。「1人1頭ずつ購買していただければ完売します」と松橋鑑定人もせりに先立ち挨拶していたが、実際にはそんなに単純な話ではない。声はかかるのだが「一声で終わる」ケースが目立ち、そのためにせり上がる馬が少なかった。

 とはいえ、活発なせり合いが演じられるシーンこそ少なかったものの、終わってみれば60頭中28頭が落札され、売却率は46.7%に上った。前年比20.4%増。上場頭数は前年比で16頭減だが逆に落札は8頭の増加で、売り上げ総額も前年より640万5000円多い6720万円とまずまずの結果である。ただし平均価格は240万円と、約21%も下落した。最高価格馬は28番「アイアムザフィリー20」(牡鹿毛、父オペラハウス、母アイアムザフィリー、母の父シンボリルドルフ)の税込み640万5000円。新ひだか町・タイヘイ牧場からの上場で、(有)ビッグレッドファームが落札した。

八戸最高価格馬

 なお、ビッグレッドファームはこの他にも2頭、合わせて3頭を購買し、JRAはこの市場で5頭を購買した。その他、中地エージェンシー、森中蕃氏などの落札が目立った。前述したように激しくせり合うほどの熱気がもっとあれば全体の売り上げはもう少し上がっていたかも知れない。

八戸・主催者代表の山内正孝氏

 この結果について主催者の青森県軽種馬生産農業協同組合代表理事組合長・山内正孝氏は「まずまずの結果。上場頭数や経済情勢など考えると上出来です」と前置きしながら「今後の課題としては、県内生産馬の中でもなるべく質の高い馬を上場してもらうように努めたい。もう少し目玉商品が欲しい。そういう素材を目当てに購買者がこの市場を訪れるような方向にならなければ…」と語った。

 ところで全60頭のうち、遠征馬10頭は終わってみれば「完売」であった。牡牝ともに最高価格馬もまたこの中から出ており、その分だけ地元青森の生産馬は振るわなかったとも言える。安直に「より一層の奮起を望みたい」などと書きたくはないが、青森の市場はあくまで青森産馬で支えて行かなければやがて存在意義を失うはず。何とか持ちこたえて欲しいと思う。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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