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気候の変化と競馬開催

  • 2009年07月11日(土) 10時50分
 夏の福島競馬もアッと言う間に最終週です。今年は、開幕週と3週目が涼しくて2週目と最終週が暑いという、相撲で言うところの“ヌケヌケ”(勝ちと負けを交互に繰り返すこと)状態でした。とくに2週目は35度まで気温が上がって、実況席に座っているだけで頭がボーっとしてきちゃいました。当日の放送でお聞き苦しいところがあったと思います。どうもスミマセン!

 それにしても、最近、天気がものすごく荒っぽくなりましたね。これも地球温暖化の影響でしょうか。競馬も、そのあおりを受けています。先月13日のばんえい帯広競馬と今月8日の道営門別競馬は、大雨で馬場が水浸しになったため中止になりました。めったに大雨なんて降ることがないところで、台風シーズンでもないのにこの事態。今後も同じようなことが起きそうで、ちょっと心配です。

 イギリスでも、去年から今年にかけて、大雨や大雪のために競馬がたびたび中止になっています。去年は、伝統の夏競馬、ヨーク競馬場のイボア開催が大雨のため中止となり、看板重賞の英インターナショナルS(05年にゼンノロブロイが2着になったレース)はニューマーケット競馬場に舞台を移して行われました。

 また、この冬はロンドンで18年ぶりの大雪が記録されるほどの寒波に見舞われ、2月2日から5日にかけて、全国で9つの競馬開催がキャンセルされました。悪天候に強く、真冬でもレースができるはずのオールウェザートラック開催も中止になり、国内では全く競馬をやっていないという、まるでクリスマスみたいな日もあったんです。

 さらに、今月1日のウースター競馬は、なんと猛暑のために第1Rが行われただけで打ち切りになっちゃいました。ウースターの競馬は、去年は大雨でいくつかの開催が中止されていますから、天災続きでもあるわけです。BBCのニュースサイトの記事によれば、当日の気温は華氏85度、摂氏に直せば30度にちょっと足りないくらいだったそうです。

 日本なら大したことない暑さですが、イギリスではこれでも“熱波襲来”なんですね。ふだんからそういう暑さに慣れていないので、そんなときに馬を走らせたらタイヘン、ということで、大事を取って開催打ち切りとしたようです。

 1780年のダービー創設から数えても200年以上の歴史を積み重ねているイギリス競馬で、猛暑のためにレースがキャンセルされたのは初めてとのこと。これはもう大事件と言ってもいいでしょう。

 そんな記録的熱波の後に、今度はまたもや大雨。先週7日のウットクセター競馬は、馬場が冠水したため中止になっています。昨夏の大雨からこの冬の大雪を経て、この夏の猛暑に大雨。イギリスでは、荒っぽい天気がグルッと一回りしちゃいました。

 このところの天気の荒っぽさが温暖化の影響だとすれば、この荒さにはますます拍車がかかってしまうでしょう。自然が相手とも言える競馬にとっては由々しき問題です。

 そんな状況の中で、私が最も心配しているのは、スイス・サンモリッツの名物「ホワイトターフ」が開催不能になってしまうこと。真冬に凍結した湖の上で開催される“雪上競馬”ですが、湖の氷が薄くなったら危険。日本でも、昔は凍結していたのに、最近は凍結しなくなった湖というのがあちこちにあるそうです。地球の温度が上がれば、スイスでもそういう事態になりかねません。私はまだこの競馬をナマで見たことがない(一生に一度は見ておきたいと思っている)ので、余計に心配しているわけです。

 そうそう、アイルランド・レイタウンの砂浜競馬(これは観戦経験があります)だって、海面上昇で砂浜がなくなったらできなくなっちゃうかも。先日まで主要国首脳会議、ラクイア・サミットが開催されていましたが、地球温暖化対策は中途半端な結論しか出せなかったようですね。グズグズしていて、大丈夫なんでしょうか…。

 とりあえずわれわれとしては、どこかのキャッチコピーにもあるとおり、「明日のエコでは間に合わない」ので「身近なエコから始めよう」を少しずつ実践するしかなさそうです。サンモリッツの雪上競馬やレイタウンの砂浜競馬などは、後世に伝えていかなければならない大切な“文化遺産”ですからね。では、また来週!

地方、ばんえい、さらには海外にも精通する矢野吉彦のJRA・GI予想は「矢野吉彦の競馬日記」へ

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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