自分で書くのもヘンですが、このところ、当コラムの“マクラ”はたいがい天気のネタになっていますね。なにしろ今年は、いつものようなカンカン照りの日が少なくて曇りや雨の日が多く、梅雨と夏を足して2で割ったような天気が続いています。このままだと、農作物だけでなく、競馬にもいろいろと影響が出てくるかもしれません。どうやら“特異な夏”になりそうな気がします。
前にも書きましたが、北海道では、帯広のばんえい競馬や門別の道営競馬が何度か雨で中止になっています。なかでも、雨の影響を大きく受けているのがばんえい競馬。馬場水分の増減によってソリの滑りやすさがガラッと変わりますから、そのレース結果は平地競馬以上に雨の影響を受けやすいんです。
6月から7月にかけて、レースが行われる週末を迎えるたびに雨に見舞われたばんえい競馬では、ある極端な現象が発生しました。1コースと10コースに入った馬はまるで勝負にならない、という状況が続いたんです。
ばんえい競馬のレースは、フルゲート10頭、直線200mのセパレートコースで行われます。つまり、1コースと10コースは“端枠”。雨の後、馬場が乾く時は、この“端枠”のほうから水分が抜けていくらしく、2コースから9コースまでの“中枠”とは全く違う馬場状態になってしまった、ようなのです。“中枠”は雨で砂が引き締まりソリが滑りやすくなったのに対して、“端枠”のほうは砂をこねまわしたために、土がソリにまとわりつくような状態になったと考えられます。それで、コースによる有利不利がハッキリと現れてしまった、というわけです。
さぁそうなると、出走馬の陣営やファンの間から、「そんなレースが公正と言えるのか?」という声が上がりました。
以前、山口瞳さんの名著「草競馬流浪記」で、どこの競馬場だったかは忘れましたが、地方競馬独特の馬場の話を読んだことがあります。かいつまんで言うと、小回りコースの地方競馬は内ラチ沿いを走る逃げ馬がどうしても有利になりがち。そこでその競馬場では、内ラチ沿いの1〜2頭分は砂を厚めに入れて、外側よりも力の要る状態にしてある。当然ながら外側は、内ラチ沿いよりスピードが出やすい。だから、晴れ・良馬場のレースは内枠不利(内で包まれたらまず来ない)。ところが、雨が降ると内ラチ沿いの砂がラチの外に流れ出てしまうので、内ラチ沿いが断然走りやすくなる。雨が降ったら内枠有利、というような内容でした。
こういうことを考えながらレースを予想するのも、競馬の楽しみだと思います。ですから、「帯広のばんえい競馬で雨が降ったら“端枠”は消し」というのも立派な馬券戦術。私も、「ばんえい競馬情報局」のコラムで、1コースに入った実力馬を敢えて軽視して、予想を的中させてもらいました。
3年前、ばんえい競馬が道内4市で開催されていたとき、夏の岩見沢競馬でも10コースの馬が大苦戦を強いられたことがありました。そのときの岩見沢は好天続き。馬場はパサパサに乾いていました。レースのほうは、つねにフルゲート=10頭立てにはならず、9頭立て、8頭立ての競走もかなりあったんです。そのため、10コースは他のコースよりも馬の蹄やソリで踏み固められることが少なくなり、砂がフカフカの状態のままになってしまいました。それで、10コースに入った馬は、よほどの力量差がない限り、勝負にならなくなった、という次第です。
馬券を買う側からすれば、こういうことは馬券戦術に取り入れればいいだけの話。でも、出走馬の陣営にとっては一大事です。今年は“特異な夏”だから我慢しよう、なんて構えている場合ではありません。7月下旬になって、ようやく馬場の砂を入れ替えるなどのコース整備が行われ、“端”と“中”での有利不利はかなり解消されたようです。今月3日、JRAジョッキーDayのイベントをお手伝いするために現地へ行って来ましたが、雨が止んで馬場が乾いてきたこともあってか、1コースや10コースの馬も連に絡むようになっていました。なので、もう、「雨が降ったら“端枠”は消し」とは決めつけられません(逆に、雨馬場の近走で“端枠”に入り惨敗した馬が大変身することはありそうなので、要注意です)。
とはいえ、これで安泰とはいかないと思います。ばんえい競馬が帯広単独通年開催になって今年で3年目。単純に言えば、それ以前の4市持ち回り開催だったときに比べて、4倍のスピードで馬場が痛んでいるはずです。某調教師の言葉を借りると、「4市開催だった時、1年に1回、馬場の全面補修をしていたのなら、今はそれを年に4回にしなきゃいけない」ということ。もちろん、冬の開催を可能にしているロードヒーティングシステムのメンテナンスも絶対必要です。
しかし、厳しい経営状況が続く主催者には、そこまで手をかけられる財政的余裕がないと言われています。また、週3日の開催を続けながら、不正行為のないように補修作業を完了させるには、それ相応の態勢づくりも求められます(かつてばんえい競馬では、馬場に異物をまかれて開催ができなくなったことがありました)。誰もが納得のいく、良好な馬場を確保するためには、課題山積と言えるでしょう。
帯広競馬場の1コースから10コースまでを、スタートから第1障害、第1障害から第2障害の手前、第2障害、第2障害の先からゴールまでの4つに分割、計40の区画に分けて、それぞれの区画のスポンサーになってくれる人や企業、つまりは“一坪地主”みたいなものを募集し、そのスポンサー料から資金を捻出して馬場補修の費用に充てる、なんていうことはできないものでしょうか?
取りあえず、応急の馬場補修は施したわけで、あとは北海道の夏らしい、カラッと晴れた天候になることを祈りましょう。夏の北海道と言えば、真っ青な青空や満天の星空の下で飲む生ビールが付き物。それと同様に、夏のばんえい競馬には、砂煙舞い上がる中での熱戦が付き物ですからね。では、また来週。
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