23日は札幌記念。今年の桜花賞とオークスを制した2冠牝馬ブエナビスタが、凱旋門賞挑戦への“脚慣らし”(?)に出走してきます。同世代の牝馬同士なら断然の強さを誇る同馬が、初の古馬混合戦も難なくモノにしてしまうのか? さらに、直線の長い阪神と東京で素晴らしいパフォーマンスを披露してきた馬が、直線の短い札幌をどうこなすのか? 安藤勝己騎手の手綱さばきも含めて、見どころタップリのレースになりそうです。
海の向こうのアメリカでは、ケンタッキーオークス馬のレイチェルアレクサンドラが圧倒的な強さを見せつけて8連勝中。イギリスでは2000ギニー+ダービーの2冠を制したシーザスターズが歴史的快進撃で6連勝中と、どちらも3歳馬が押しも押されもせぬ競馬の主役を務めています。
両馬に共通しているのは、春のクラシック戦線で同世代同士の勝負にほぼ決着をつけているという点。ブエナビスタも、凱旋門賞挑戦を決めた時点で、両馬と同様だったわけです。シーザスターズはその後、古馬に混じってさらに強いレースを続けていますし、そういう意味からも、ここは馬券を抜きにして、ブエナビスタに勝ってもらいたいところです。
ご存知のとおり、アメリカでは3歳3冠レースが春に集中。それが終わると、3歳馬は古馬に混じっての戦いに組み込まれていきます。イギリスでは3冠の最終関門、セントレジャーが9月に組まれてはいますが、その距離が敬遠されて同レースは地盤沈下を起こし、春のクラシックで上位を賑わせた馬がこれを目指すことはほとんどなくなりました。
したがって、7月のアイルランドダービー、同オークスが終われば、3歳馬同士の戦いはほぼ終了。あとはやはり、3歳馬も古馬混合戦に飛び込んでいくことになります。
ところが日本では、秋にある3冠最終関門、菊花賞&秋華賞の“価値”が高く、3歳の実力馬が古馬戦線に本格参入するのはそれが終わってからになりがち。最近こそ、菊花賞は距離不向きと見て、古馬混合の天皇賞・秋を目指す3歳馬も多くなってきました。しかし、まだまだそれが“王道”というところまでには達していません。もうすぐ始まる秋競馬も、しばらくは菊花賞&秋華賞を目指す3歳馬限定のトライアルレースが売り物になっています。
欧米の3歳馬が早くから古馬混合戦に挑戦していくのは、斤量的に有利だから、ということもあるでしょう。また、とくにヨーロッパの競馬では、晩秋から早春にかけて平地競馬がシーズンオフになってしまうので、その分だけ1シーズンが速いテンポで展開されるから、とも考えられます。
同世代同士でほぼ勝負付けが済んだのなら、早く次のステップに進んで力を試しなさい、というシステムができあがっているわけです。
そこで今年のレイチェルアレクサンドラやシーザスターズが出てくると、私などは、「欧米型の競馬のほうがおもしろいかな」なんて思ってしまうんですね。なんてったって、“旬の3歳馬”をイキのいいうちに見られるんですから。
競走馬を長くいい状態で走らせ続けるのはとても難しいこと。春と秋に約3か月ずつのGIシーズンがある日本では、それにあわせて馬を作らなければなりません。これはなかなかタイヘンだと思います(それを乗り越えてこそ、本当に強いと言える馬が現れるんでしょうが)。
斤量的に有利な部分はあるにせよ、欧米でこの時期(初夏から初秋にかけて)に3歳馬が古馬に混じって互角かそれ以上の戦いができるというのは、ひょっとしたら今ごろの3歳馬が一番伸び盛りで走れる時期にあるから、なのかもしれません。だったら、そこで馬を休ませるより、もうひと踏ん張りさせてくれたほうがおもしろいんじゃないですか?
まぁ、先にも書いたように、日本では春・秋のGIシーズンが長いので、この時期にバリバリの3歳馬をいい状態で走らせるのはちょっと無理。少なくとも冬の間をタップリ休養に充てないと馬が持たないでしょう。でも、そうしていると春のクラシックの出走権が得られません。
だったら、2歳秋までの時点で翌年のクラシックに出られる権利を確保できるシステムを作ってみてはいかがでしょう。最近の流れで言うと、秋の新馬戦の中に、後々のクラシックで上位を争うことになる馬がこぞって出走するレースがありますね。そこに出てくるような馬はそれぞれかなりの実力を持っていて、たとえ負けたとしても、その後どこかでクラシックの出走権を手にするはず。
そういう馬を秋から初春にかけて何回も走らせてようやくクラシックの出走権を取らせるより、早めに権利を取れるように仕向けたほうが、いい馬がフレッシュな状態でクラシックを走れるようになると思うのですが。
その代わり、冬の間は、いわゆる秋のクラシック戦線で頭角を現す夏の上がり馬、のような存在を見つけ出すシーズンと位置づけます。トライアルレースは、そういう馬の登竜門とするんです。で、クラシック本番のレースは、早めに権利を取った素質馬と、トライアルを制して勢いに乗ってきた馬が激突する舞台になるわけです。
そして、春のクラシックが終わった後は、3歳馬と古馬とで、得意の距離や条件(芝かダートか)を舞台に覇権争いを繰り広げてもらいます。異論があるのを承知の上で言えば、菊花賞や秋華賞といった3歳馬限定の3冠最終戦は、そういう秋のシーズンにある選択肢の1つ、となってもいいと思います。
こうすれば、ブエナビスタのように、3歳秋は海外のビッグレースに挑戦、という馬も増えてくるのでは? 斤量的にも有利なわけですから、勝つチャンスも広がってくるかもしれません。
なにはともあれ、夏の間にも、3歳のトップホースの優れたパフォーマンスをもっと見られるようなシステムを作ってほしい、というのが今回の結論です。サマースプリントやサマー2000の充実にもつながる方策。関係者の方々、ぜひご検討ください! では、また来週。
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