早くも夏競馬が最終週を迎えてしまいました。今年は梅雨の終わりと夏の盛りと秋の始まりがゴチャ混ぜになったようなヘンな夏でしたから、いつもの年以上に「アレッ、もう終わっちゃうの」っていう気がしてなりません。でも、否応なしに来週からは秋競馬がスタートします。過ぎゆく夏を惜しんでいるヒマはなさそうですね。
さて、我が家には、社台グループのご厚意で、会員向けの月刊誌「サラブレッド」が毎月送られてきます。その中の「もちろん、これが世論です!」というコーナーでは、競馬にまつわる問題を毎月1つずつ提起し、会員にその賛否を問う“世論調査”が実施されています。
今年6月号のテーマは「調整ルームは必要か否か」。社台の会員サン95人の回答では「必要」が72%、「不要」が22%、とありました。また、同7月号は「G1レース発走直前の手拍子を許すか否か」をテーマに意見を募集。有効回答数151のうち、「許す」は37%、「許さない」は57%だったそうです。
ここでは、その結果について、どうこう言うつもりはありません。話を先に進めます。先日届いた9月号のテーマは、「日本語馬名は賛成か反対か」というものでした。同コーナーの「問題提起」には、次のように書かれています。
「(社台の)クラブ所属馬の馬名は、(中略)その8割近くが英語馬名となっています。しかし、まれに(中略)日本語の馬名もあり、なかなかの活躍を見せていることは皆様もご承知のとおり。日本人の魂が伝わる、覚えやすい、親しみやすいというメリットがあるようです。
一方、(中略)もともと欧米では連想ゲーム的に馬名が脈々と受け継がれていく傾向にあり、日本語馬名がその流れを断ち切ってしまう危険性が指摘されています。あるいは、愛馬が国際舞台に勇躍するさい、馬名が理解されにくいという意見もあります。さてさて皆様のご意見はいかに?」
この問いかけに回答できるのは社台の会員サンだけ。いったいどういう結果が出るんでしょうか? 同コーナーでは補足意見も募集しているので、それを読むのも楽しみです(公開は11月号誌上になりそうです)。
この問題を提起されて、ふと思ったのが、「日本ダービー(東京優駿)と優駿牝馬(オークス)の優勝馬の名前にも“和風馬名”と“洋風馬名”がある。その流れはどうなっているのか?」ということ。早速調べてみました(以下、馬名に当てはめた漢字は、由来がハッキリしているもの以外は私の想像です)。
まず日本ダービー。戦前は、第1回=1932年のワカタカ(若鷹)をはじめ、カブトヤマ(兜山、第2回=33年)、クモハタ(雲旗、第8回=39年)など、やはり“純和風馬名”のオンパレード。“洋風馬名”は、第3回=34年のフレーモア、第4回=35年のガヴァナー、第10回=41年のセントライト)の3頭しかいません。
この流れは戦中から戦後へと続き、ミナミホマレ(南誉、第11回=42年)、クリフジ(栗藤、第12回=43年)、カイソウ(海草、第13回=44年)、マツミドリ(松緑、第14回=47年)、ミハルオー(三春王、第15回=48年)、タチカゼ(太刀風、第16回=49年)、クモノハナ(雲乃花、第17回=50年)、トキノミノル(時之実、第18回=51年)、クリノハナ(栗乃花、第19回=52年)と、9回連続で“純和風馬名”の馬がダービーを制覇します。
第20回=53年はボストニアン、第21回=54年はゴールデンウエーブと“洋風馬名”馬が連覇しますが、第22回=55年のオートキツ(大時津)からは、ハクチカラ(博力、第23回=56年)、コダマ(木霊、第27回=60年)など、“純和風馬名”馬が7連勝。1年おいて、メイズイ(明瑞、第30回=63年)、シンザン(伸山、第31回=64年)、さらに1年おいて、テイトオー(帝都王、第33回=66年)、アサデンコウ(朝電光、第34回=67年)が優勝と、このあたりまでは、“純和風馬名”が圧倒的に優勢の時代でした。
その後、第35回=68年に、タニノハローモアが日本語冠名+外国語という“和洋折衷馬名”の馬として初優勝を飾ると、ダイシンボルガード(第36回=69年)、タニノムーティエ(第38回=70年)と“同系馬”が3連覇。これで流れが変わり、しばらくは、カブラヤオー(鏑矢王、第42回=75年)やサクラショウリ(桜勝利、第45回=78年)などの“純和風馬名”、タケホープ(第40回=73年)やカツラノハイセイコ(第46回=79年)といった“和洋折衷馬名”、ロングエース(第39回=72年)、クライムカイザー(第43回=76年)などの“洋風馬名”が“三つどもえ”の様相となる時代を迎えます。
そして、80年代からは、“洋風馬名”の時代に突入します。80年から2009年の30年間で、“洋風馬名”馬の優勝は18回あるのに対して、“和洋折衷馬名”馬の優勝はその半分の9回、“純和風馬名”馬の優勝に至っては、第55回=88年のサクラチヨノオー(桜千代乃王)、第58回=91年のトウカイテイオー(東海帝王)、第62回=95年のタヤスツヨシ(田安強)の3回しかありません。ここ3年も、ウオッカ、ディープスカイ、ロジユニヴァースと“洋風馬名”馬が3連覇しています。
一方、優駿牝馬の優勝馬は、第1回=1938年がアステリモア、第3回=40年がルーネラ、第5回=42年がロックステーツと、戦前・戦中から“洋風馬名”馬が健闘。日本ダービーのように、“純和風馬名”馬が6連勝とか9連覇なんていうことはありません。
しかも、“純和風馬名”馬の優勝は、第42回=81年のテンモン(天文)が最後。80年から2006年まで(81年は除く)は、“洋風馬名”馬と“和洋折衷馬名”馬(第41回=80年のケイキロクもこれに含めました)が13回ずつ優勝を分け合っていましたが、こちらも日本ダービー同様、第68回=07年以降は、ローブデコルテ、トールポピー、ブエナビスタと“洋風馬名”馬が3連覇中です。
こうした流れは、演歌優勢の時代から、グループサウンズ、アイドル歌謡、ニューミュージックの時代を経て、和製ポップスとかJ−POPの時代へと移り変わってきた日本の音楽業界と歩調を合わせているような気がします。
また、ここ30年の優駿牝馬の優勝馬に“洋風馬名”馬が多いのは、日本人の女の子の名前と同じようでもあります。その昔は「○○子」チャンが大勢いたのに、最近は日本語だか外国語だかわからない名前とか、どう考えたって外国語という名前が多くなりましたからね。
「サラブレッド」誌の“世論調査”は「日本語馬名の可否」を問うものですが、今年の優駿牝馬優勝馬ブエナビスタの例を挙げるまでもなく、日本の競走馬名には世界中の言葉がちりばめられています。今後、そのグローバル化にはますます拍車がかかるでしょう。その中で、日本語馬名を排除すべきかどうか。あなたはどう考えますか? 社台会員のみなさんは、ぜひよく考えて投票してくださいね(ただし、『サラブレッド』誌にもあるとおり、その結果で何がどうなるというわけではありませんが)。では、また来週!
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