5日(土曜日)に北米ニューヨーク州のサラトガ競馬場で行われたG1ウッドウォードSを、3歳牝馬のレイチェルアレクサンドラが優勝した。
これまでも、春のG1プリークネスSや前走のG1ハスケルインヴィテーショナルで、同年代の牡馬を撃破していた彼女だが、古馬の男馬との対戦は初めてだった。ここで、今年6月にチャーチルダウンズのG1スティーヴンフォスターHを制しているマッチョアゲイン(牡4)や、前走同じサラトガのG1ホイットニーHを勝っているブルズベイ(牡5)らを退けて優勝。北米の女傑伝説に、新たな1ページが書き加えられた瞬間だった。
56回の歴史を数える同競走で、牝馬の優勝は史上初めて。主催したニューヨーク競馬協会によれば、グレード制が導入された73年以降、ニューヨーク州で行われたダートのG1で3歳牝馬が古馬の牡馬を破って優勝するのも、初めてのケースとのことだ。
アメリカには長い間、全米を横断する形の競馬統括団体がなく、記録や統計も古い話になると各州がてんでに保管しているケースも少なくない。従って、アメリカでは「何年ぶり」とか「何頭め」とかいう数字が日本ほどスムースには出てこないのだが、レイチェルアレクサンドラによるウッドウォードS優勝は、歴史的に見て極めて稀れな快挙であることは間違いなさそうだ。
1954年創設のウッドウォードSに関して言えば、レイチェル以前にここに出走した3歳牝馬は、ベルモントパークの12f戦として行われていた時代の72年に、サマーゲストの出走があったのみ。この時のサマーゲストは、キートゥーザミントの2着入線後、進路妨害で3着降着という成績だった。
古馬の牝馬になると延べ8頭の出走があり、86年にはこの年の年度代表馬レディーズシークレットが2着に健闘している。ちなみにこの年、レディーズシークレットはG1ホイットニーHで牡馬を破って優勝しているが、当時の彼女は4歳だった。
様々な報道を見ると、ダートでもマイル以下の距離だったり、あるいは芝のレースだったりすると、3歳牝馬が古馬の牡馬を破ってG1を勝つというケースがかなりあるようだが、ダートの中距離G1となると本当に珍しい。グレード制導入以前に目を向けると、1944年にトワイライトティアーという3歳牝馬がピムリコスペシャルを制しているという記録が残っており、現在G1の格付けを与えられているダート中距離G1を3歳牝馬が勝つのは「これ以来65年振り」と報じているマスコミもあるが、定かではない。
ちなみにニューヨーク州に限るなら、1887年に当時はダート10fで行われていたマンハッタンHを、レディープリムローズという3歳牝馬が制して以来、「122年振り」の快挙だそうだ。
いずれにしても、途轍もない快挙を達成したレイチェルアレクサンドラではあるが、この日のレース振りに関して言えば、決してスマートではなかった。
逃げたのはレイチェルだったのだが、半マイル通過46秒41、6F通過が1分10秒54というのは、明らかに暴走気味のラップである。それでも逃げ切るのだから、逆に強さを際立たせたとも言えるが、ゴール前では道中最後方に控えていたマッチョアゲインが猛烈な勢いで追い込んできて、慌てた鞍上のカルヴァン・ボレロがステッキを連打。乱れたリズムで14回もたたき続けた結果、アタマ差の辛勝だったのである。
前半のペースもさることながら、馬が反応していると思えぬステッキを14回も連打した騎乗は、決して褒められたものではなかったと思う。
さすがにレース後は馬に疲れが見られるようで、陣営からはその後、来季の現役続行を示唆する一方、今季はこれでオフに入る公算大とのコメントが発表された。
今季ここまで8戦8勝。うちG1・5勝という成績は文句の付けようがなく、2月以来ほとんど休むことなく走り続けてきた彼女には、休養が必要なことも確かであろう。
だがファンとしてはやはり、西海岸に君臨する女王ゼニヤッタとの直接対決を見るチャンスが、完全に失われてしまうのでは残念至極である。陣営は、今回の勝利でレイチェルの年度代表馬は確定的。3歳牝馬が年度代表馬になれば、1945年のブッシャー以来64年振りで、これでまた1つ、レイチェルの勲章が増えると目論んでいるようだが、果たしてそうだろうか。
仮にゼニヤッタが、次走に予定されているG1レディーズシークレットHに勝ち、その後、巷間噂されているBCクラシックに挑んで、牡馬を打ち負かして14戦無敗の成績で引退ということになれば、年度代表馬のタイトルはどちらに転ぶかわからなくなる。
レイチェルとゼニヤッタが、どこかで直接対決をして決着をつける以外、全てをすっきり収めることは出来ないと思うのだが。