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ミスを振り返るのではなく

  • 2009年11月07日(土) 00時10分
 3日のJBCデー。先週の当コラムでも予告したとおり、私は当日の名古屋競馬全レースを実況させていただきました。

 終わってみれば「いけない!」、「しまった!」の連続。決してアガっていたわけではありませんが、平常心ではなかったと思います。お聞きいただいたみなさんに申し訳なく、情けない気持ちで一杯になりました。

 でも、名古屋から東京に戻る新幹線の車中で、大先輩の吉田勝彦アナウンサーから「落ち込む理由は何もない! 胸を張って帰ってください」というメールを頂戴しました。感謝感激。これを機にさらに精進する所存ですので、どうか今後もなにとぞよろしくお願いいたします。

 それにしても、大舞台ではちょっとしたミスが命取りになる、ということを改めて思い知らされている今日この頃です。メジャーリーグのワールドシリーズやプロ野球の日本シリーズを見ていてもしかり。敗因を突き詰めると、必ずと言っていいほど、ミスに行き当たります。これは、どんな仕事にも通じることでしょう。

 八百長をしない限り、ミスをしようと思って犯すミスはありません。同じミスを繰り返さないように、ということも、みんなわかっているはずです。それでも、同じようなミスは起きます。大事なところでミスを犯すか犯さないか。それが実力のあるなしにつながるのかもしれません。

 そこで、できるだけミスを犯さないようにと精進するわけです。ところがこれは、初めにミスありき、の精進。それとは逆に、「なぜあの時はうまくいったのか」を考えて、そこから成功例を増やし、相対的にミスを少なくする、という精進の仕方もあります。

 それに気付かされたのは、とあるテレビ番組で耳にした、今は亡き往年の大投手・稲尾和久さんの言葉。「人は、ダメだったときの反省はよくする。でも、よかったときの反省もしなさい」というものです。「よかったときの反省」とは、先に書いたように、「なぜあの時はうまくいったのか」を考えること。その理由がわかれば、あとはそれを再現する、あるいは、よりよいものに昇華させるための精進を積み重ねる。そうすれば、ミスは少なくなり、成功が増えるはずだ。稲尾さんが伝えたかったのは、こういうことだと思います。

 これも、某テレビ番組で見たことですが、スポーツの世界では、もうすでにこの“稲尾理論”が実践されています。“よかったとき”のことを思い返し、そこに至る経過を再びたどることで、成功する状態=“ゾーン”に入れるようにする、というやり方。大ざっぱに言えば、メンタルトレーニングとはそういうものだそうです。

 「それじゃぁ、よかったことがあまりない人はどうすればいいんだ?」という疑問が起こりますね。私もそう。「あのときはうまくできた」のはたまたまで、「ダメだった」ことのほうが多いわけですから。

 「他人のミスをあげつらうようなことをしない」、というのが、その答になるでしょうか。言い方を変えれば、「他の人のいいところを探して見習え」ってことです。「うまくいったこと」があまりなければ、「うまくいった人」を見習うしかありません。

 ミスは誰が見てもわかること。「あんなミスしやがって」で終わりです。そうやって敗因を突っつくよりも、「あれはいい。自分もああいうことをしたい」とか、「あの人は素晴らしい。あんなふうになりたい」と思って、次は自分も成功できるように、精進するしかないでしょう。

 今年のJBCからしばらく時間がたって、ようやく気持ちが落ち着いてきました。いつまでもへこんでいないで、まだまだ頑張らなきゃいけません。もちろん、その場を与えていただかなければ頑張りようがない、ということは重々承知していますが。

 ところで、今回のJBCスプリントを勝ったスーニと、クラシックで3連覇を果たしたヴァーミリアンにも、まだまだ頑張ってほしいですね。今回は、どちらのレースも「あの馬が出ていたら」と思われがちな顔ぶれになってしまいました。だからこそ、両馬ともに、そういうことを言われないメンバーが出揃ったレースでしっかり勝って、「やっぱり強かった」と思わせてほしいんです。それが、今回のJBCがハイレベルだったことの証しになるはずですから。

 どうやら両馬ともにジャパンCダートに向かうようです。ライバルの“壁”はかなり厚くなりそうですが、いいところを見せてほしいと思っています。では、また来週!

地方、ばんえい、さらには海外にも精通する矢野吉彦のJRA・GI予想は「矢野吉彦の競馬日記」へ

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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