今週末、京都で行われるGIエリザベス女王杯に参戦すべく、フランスからシャラナヤ(牝3)がやってきた。
エリザベス女王杯が外国調教馬に門戸を開放したのは99年。4年後の03年に、フランスからアナマリーとタイガーテイルの2頭が参戦したのが、このレースを走った初めての外国調教馬で、このうちカナダのG1、EPテイラーS・2着、イギリスのG1ヨークシャーオークス4着の実績があったタイガーテイルが、アドマイヤグルーヴの3着に好走した。
その後、昨年まで6頭の外国馬が出走したが、03年のタイガーテイルを上回る成績を挙げた馬は出ていない。
そのタイガーテイルを含めて、これまで来日したどの馬をも実績で上回るのが、今年参戦のシャラナヤである。
世界屈指のオーナーブリーダー、アガ・カーン殿下の自家生産馬シャラナヤ。デビューが今年5月までずれこみ、初勝利を挙げたのは春のクラシックも終了した6月18日だったが、競馬を覚えるにつれてパフォーマンスが向上。9月1日にロンシャンで行われた2100mの準重賞リアンクール賞を3馬身差で圧勝した後、10月4日の凱旋門賞デーに組まれた牝馬のG1オペラ賞にぶつけ、G1で重賞初制覇を飾るという離れ業を成し遂げた。
オペラ賞といえば、欧州の強豪牝馬たちがシーズン最後の目標にするレースだ。今年も、グッドウッドのG1ナッソーSの勝ち馬で、英オークス2着の実績もあるミッデイ(牝3)、ドーヴィルのG1ジャンロマネ賞の勝ち馬アルペンローズ(牝4)、今年のG1独オークス馬で、イタリアのG1リディアテシオ賞で僅差の2着になっているナイトマジック(牝3)ら、そうそうたる顔ぶれが揃っており、彼女らを負かしての勝利だけに価値がある。
しかも、今年の夏から秋にかけての欧州は、近年になく晴天続きで馬場が乾き、凱旋門賞デーのロンシャンも馬場状態は「BON」。8段階に分かれたフランスの公式発表の中で、固い方から2番目という馬場で行われたレースだけに、ここで良い競馬をしたシャラナヤは、日本の馬場も充分にこなすポテンシャルを秘めているはずだ。
更にそのレースぶりが、道中後方から末脚を伸ばすのが持ち味。オペラ賞の時も道中は最後方に控えて、直線では外に持ち出し、一気にライバルを抜き去るという豪快なものだった。鋭い切れ味を持っているという点でも、日本の競馬向きと言えそうだ。
牝系は、祖母シャラマナ(父ダルシャーン)が、ダービーやキングジョージを制したシャーガーの、13歳年下の妹というファミリー。シャラマナに、英2冠馬ナシュワンが配合されて産まれたのがシャラナヤの母シャラマンティカで、これにドイツの年度代表馬ロミタスが配合されて産まれたのがシャラナヤだから、典型的な欧州血脈であることは間違いない。
しかし、ロミタスの産駒には、ドイツ調教馬ながら北米に遠征してアーリントンミリオンを制したり、香港に遠征してクイーンエリザベス2世Cに優勝したシルヴァーノのように、軽い競馬を好む馬も出ており、欧州の重たい競馬一辺倒の血統ではないことを示している。
筆者がシャラナヤに肩入れしたくなる背景には、もう1つ理由がある。それは彼女が、関西空港に降り立ち、JRAの関西地区における検疫施設・三木ホースランドパークで着地検疫を受けているという事実である。
03年にタイガーテイルが好走した時、彼女が降り立ったのは成田であり、着地検疫を受けたのは、ジャパンC時に使用される施設として良く知られる、白井の競馬学校であった。
三木の施設も非常に立派なものではあるが、馬場は1周880mと、1周1400mある白井に比べると、かなり手狭だ。
そうでなくても、海外からやってくる調教師からしばしば、「成田から直接東京競馬場に入れると楽なのだが」というボヤキが聞かれるように、日本への長旅の後に本番までに2度輸送があるというのが、日本における国際競走に外国馬を誘致する上で障害の1つとなっている。ことに関西地区の国際競走の場合は、近くの三木は手狭で、白井で検疫をすると検疫後の輸送が長いと、敬遠されがちなのが現状なのだ。
今回、三木で検疫を受けるシャラナヤが良い競馬をし、「三木も使えるじゃないか」との評判が海外関係者の間で広がってくれれば、今後は、関西地区の国際競走に外国馬が来やすくなるはずなのだ。
そういうわけで、シャラナヤにはぜひ頑張って、好成績を残してもらいたいものである。