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なんともドラマチックな

  • 2009年12月05日(土) 00時05分
 先週のジャパンC。ウオッカは、なんともドラマチックな馬だなぁ、と思いましたね。去年の天皇賞・秋といい、今回といい、負けていてもおかしくないような写真判定の末に勝っちゃうんですから。

 同馬にとっては、これが7つ目のGI制覇です。そのうち、阪神ジュベナイルフィリーズと日本ダービーが四位騎手、去年の安田記念が岩田騎手、去年の天皇賞・秋、今年のヴィクトリアマイルと安田記念が武豊騎手の手綱によるもの。そして今回はルメール騎手とのコンビでタイトルを獲得しました。これほどいろんな騎手が騎乗してGI勝利を積み重ねてきた馬も珍しいような気がします。

 今回の勝ち時計は2分22秒4。ウオッカが日本ダービーを制したとき(四位騎手)は2分24秒5、一昨年のジャパンCで4着になったとき(同)が2分24秒9、去年のジャパンCで3着になったとき(岩田騎手)が2分25秒7という走破タイムでした。つまり今回は2秒以上、自身の持ちタイムを詰めたわけです。

 ウオッカと言えば、牝馬らしい鋭い切れ味が自慢。過去3度の東京2400m戦では、“タメ”を効かせて上がり33.0〜34.3秒の脚を繰り出し、上記のタイムをマークしていました。ところが今回は、リーチザクラウンがリードした速い流れを追いかけながら、上がり34.8秒でまとめ、自己ベストを叩き出したんです。

 柏木集保さんの「重賞レース回顧」にもあるように、追い出しのタイミングをわずかに遅らせて“タメ”を作り、自慢の末脚を爆発させたのはルメール騎手のスゴイところ。さらに、ゴール手前数十メートルからの叩き合いの末、オウケンブルースリの追撃をしのいだ驚異の粘り腰もあわせて引き出しちゃったとあっては、「ルメール騎手、恐れ入りました」と言うしかないでしょう。

 でも、この数字を改めて振り返ってみると、今回の勝利は薄氷を踏むようなものだったとも言えます。ウオッカにとってはあれがギリギリ、ひょっとしたら限界を超えるほど、まかり間違えば壊れてしまうくらいの激走だったのでは? ウオッカだからできた走りで、並のオープン馬だったら、あそこまでは頑張れなかったと思います。まぁ、そういう馬の優れた能力を引き出したのも、ルメール騎手の手綱があってこそ、だったのかもしれませんが。

 この後すぐに、これ以上のパフォーマンスをウオッカに求めるのは酷ですよ。レース後に鼻出血が判明したのは、「お疲れ様。ちょっと休みなさい」という“天の声”じゃないですか? 現役を続けさせるかどうかの結論は下されていないようですが、取りあえず有馬記念に出られなくなったのは、馬のことを考えたらよかったのかもしれません。私が言うのはおこがましい、というのは承知の上で、あえて言わせていただきます。もし、現役続行→海外挑戦ということになったら、まずは“天の声”に従って、ゆっくりじっくり、リフレッシュさせることから始めてください!

 ウオッカほどの馬が、その能力をすべて出し切って勝利をもぎ取ったレース、なんですから、今年のベストレースはこれに決まりでしょう。柏木さんは、ウオッカのベストパフォーマンスではないかとおっしゃっていますが、私も同感です!

 さぁ、激闘の余韻に浸っている場合じゃありません。今年もあと1か月足らず。いよいよラストスパートです。ジャパンCは、レッドディザイアのおかげで予想が当たりました! この勢いで年末まで突っ走れるといいんですけど。では、また来週。

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テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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