5月30日「東京ダービー」は伏兵キングセイバーの快勝だった。スオウリージェントが先導するスローをスムーズに2番手追走。3~4コーナー、リージェントの手応えが怪しいとみるや間髪を入れず先頭を奪った。直線は早めに動いたジェネスアリダーとの一騎打ち。並ばれてからがしぶとい。結局クビ差凌いで栄光のゴールに飛び込んだ。同馬は川崎からデビューし地元4連勝。その後初登場の大井で一敗地にまみれたが(雲取賞4着)、直前距離2000mクラウンCを勝ち再び態勢を整えていた。父キンググローリアス、基本はスピード優先だが、一連のレースぶりから差す脚もある。当日480キロ、すらりとした漆黒のグッドルッキングホース。ともあれ、今日は何より鞍上の自然流かつ思い切った騎乗が功を奏した。
その酒井忍騎手。昨年7月に新潟公営から移籍。東京ダービー初騎乗でいきなり栄冠をつかんだ。新潟700勝ジョッキーだから当然といえば当然だが、やはり素晴らしい強運を持っている。「いつも稽古をつけている忍に好きなように乗ってもらった」と八木仁調教師。信頼が厚いということだろう。29歳。先行してよし、追わせてよしの腕達者。特に目につくのはぴたり決まった美しい騎乗フォームで、本人もそれには自信を持っていると聞いた。「ゴドルフィン」を連想させるマリンブルー一色の勝負服。これから彼自身のファンも増えるはずだ。
東京ダービー(サラ3歳・定量・南関東G1・2000m良)
(1)キングセイバー (56・酒井) 2分08秒0
△(2)ジェネスアリダー (56・桑島) 首
○(3)プリンシパルリバー (56・石崎隆) 2
△(4)シャイニングボス (56・鷹見) 1
▲(5)ノムラリューオー (56・張田) 頭
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◎(9)エスプリシーズ (56・今野)
△(10)ダイワミズリー (56・的場文)
単1970円 馬複11160円 馬単32740円
3連複9180円 3連単130910円
ただしレースの流れ、内容を改めて振り返ると、少々首をひねりたくなる不満も残った。勝ちタイム2分08秒0、断念ダービーにあたる前日の「若竹賞」2分07秒8より現実に遅い。今開催は降雨の影響か通常より1~1.5秒は軽い馬場。ごく普通なら06秒台が推定された。1000m通過63秒1と生ぬるい流れで、しかも上がりは38秒9でしかない。「ペースが遅くて…」レース後有力馬のジョッキーは異口同音のコメントだったが、正直少し違う気もする。人馬に力と自信があればもう少し積極的に動けたはずで、そもそもダートのチャンピオン戦とは本来そういう戦いだろう。結局出走馬16頭、それだけのレベルにないということ。7月4日統一G「ジャパンダートダービー」に向けて、やはり展望は厳しい。
二冠をめざしたプリンシパルリバー。中団をじっくり進んだのは羽田盃と同じ。しかし勝負どころでインに入れず、直線も大外に持ち出すロスがあった。首+2馬身の3着は状況を含めるとまず許容範囲で、つまるところ今日は石崎マジックが使えなかった結果だろう。完成度、馬の精神力は認めるが、さりとてずば抜けたパワーはない。対してベテランらしい読みで2着した桑島ジェネスアリダー。ただこちらもあそこまで迫って交わしきれないあたり、現状の限界を感じさせる。後方から自分の競馬に徹したシャイニングボスは力通り。ノムラリューオーはせっかくの1番枠を大事に乗りすぎた感じで不完全燃焼だった。スタミナには自信があるはずのスキャン産駒。結果論ながら、羽田盃のような強気の姿勢がほしかった。
期待したエスプリシーズはパドックからこの馬らしくないイレ込みで、ゲート入りにてこずった。連戦で馬にストレスが出てきているのかもしれない。しばらく充電期間が必要か。なお勝ち馬キングセイバーもこの後いったん放牧休養、「ジャパンダート」は回避の公算が強い。
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2日後の東京「ユニコーンS」。船橋ヒミツヘイキが金星をあげた。いや金星というには堂々と強すぎる勝ちっぷり。道中2番手を馬なりで進み、直線ごく当たり前という自然体で抜け出してきた。2歳時平和賞を含む3戦2勝、以後およそ半年の休養を経て、前走5月6日に古馬B級戦を勝っていた。父ダミスター、490キロの馬体も迫力十分。羽田盃、東京ダービーの結果を踏まえると、一気に南関東世代最強へ昇ったという評価が自然だろう。ただ右トモに弱点があり、当分は左回りしか使えないとのこと。「ジャパンダート」には出走せず、次走は6月27日地元船橋の「若潮盃」。最終目標を9月23日盛岡「ダービーグランプリ」に置いて調整される。