19日「帝王賞」。ロジータの仔カネツフルーヴの圧勝だった。道中逃げたサプライズパワーの2番手で完璧な折り合い。「スタート一完歩目でつまずいたので、あとは馬まかせ」と松永幹騎手。ただあの行きっぷり、スムーズさかからはすでに折り込みずみの作戦だったようにもみえる。4コーナーまで持ったまま進み、直線中ほど、前後左右を何度も確かめつつ、ワンツースリーのタイミングで追い出された。過去のフルーヴからはとうていイメージできなかった爆発力。後続をあっという間に3馬身ほども置き去りにした。2000m2分3秒7は帝王賞史上、平成7年ライブリマウントと並ぶ?2(第1位・10年アブクマポーロ2分3秒4)。掛け値なしの強さというしかない。文字通り横綱相撲だ。

　帝王賞(サラ3歳以上・別定・統一G1・2000m・梢重)

　　(1)カネツフルーヴ　　　　57・松永幹　2分3秒7
　△(2)ミラクルオペラ　　　　57・幸　　　21/2
　▲(3)インテリパワー　　　　57・張田　　1/2
　△(4)リージェントブラフ　　57・吉田豊　3/4
　○(5)トーホウエンペラー　　57・菅原勲　3/4
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　◎(8)トーシンブリザード　　57・石崎隆
　　(9)ワンモアマイライン　　57・角田
　△(11)マキバスナイパー　　 57・左海

　単1440円　　馬複6550円　　馬単17290円
　3連複12000円　　3連単105840円

　カネツフルーヴの変身。ごくストレートな意味でこの夜は「血の不思議さ」を痛切に感じた。同馬はなるほどJRA6勝、未勝利戦を7馬身差で勝つなどしばしばダートで凄みをみせたが、現実にオープン2戦の経験しかなく、それも直前中京「東海S」5着でハギノハイグレイド、ワンモアマイラインに大きく水を開けられている。近況はどこか逃げ一手に固まったようなイメージもあった。が、ここで大逆転。ミラクルオペラ、マンボツイスト、ワンモアマイライン、実績上位馬をことごとく退け、JRA一連の戦績を一挙にご破算にした。

　母のあと押し。ロジータはいうまでもない名牝で、川崎出身ながらクラシック三冠達成、京浜盃、東京大賞典と大井重賞を総ナメにし、4歳(旧5歳)春、あっけらかんとした潔さで引退している。心残りといえば帝王賞だけ。それをいま息子が堂々たるレースぶりで晴らしてみせた。強いて勝因を一つに絞ればやはりコース適性ということになるだろう。終始力強く、それでいてリラックスした走りっぷり。ただし単に「力の要るダート」が味方したわけでもない。繰り返すが2分3秒7はきわめて優秀な勝ち時計だ。

　予定していた旭川「ブリーダーズGC」を見送り、夏場いっぱいを充電にあてるという。大目標は「ジャパンCダート」、そして「東京大賞典」。今年中山で行なわれる前者は顔ぶれも含め微妙だが、大井2000mの後者は間違いなく好勝負だろう。平成元年、母ロジータの大賞典はそれこそとてつもなく強かった。直線大外から一気。当時岩手の怪物(水沢・盛岡17戦15勝)といわれたスイフトセイダイを4馬身ちぎっている。

　2着ミラクルオペラ。終わってみればこちらもさすがの底力を示している。久々で行き脚がつかず4コーナー中団よりやや後ろで厳しい手応え。それでもエンジンかかっての末脚は迫力があった。昨年のJCダート3着。何より逆境をはね返し、初コースも問題にしないところが砂の強者にふさわしい。3着インテリパワーは能力通り。好位のインにスッとつけ一分の隙もないレースをした。結果敗れたものの、この馬の競馬センス、精神力には改めて脱帽する。まさしくプロフェッショナルな競走馬だ。リージェントブラフ4着も昨年の時計だけ走っている。こちらは良馬場で競馬をしたかったというのが本音だろう。5着トーホウエンペラーは、状態面でひと息だったか勝ちに行く競馬をしていない。3～4コーナー外から動いて見せ場を作り、そこで終了という淡白なレースぶり。予定していたシアンモア記念を使えず、微妙に調整が狂ったらしい。秋へ向け再び立て直しになる。

　さてトーシンブリザード。道中5番手、インテリパワーの直後を進んだのは作戦通り。しかし追われてさっぱり伸びなかった。パドック、返し馬とも気配ひと息。「何か馬に元気がなかった」(石崎隆騎手)のコメントを合わせ、敗因は体調面というしかないだろう。フェブラリー2着→ダイオライト5着→かしわ記念1着→帝王賞8着。どうやら調子の波、振幅が激しくなっているようで、少しうがった見方をすれば、これが早熟型の一つ弱みなのかもしれない。次走は未定。いずれにせよ馬の成長力という点で評価が難しくなってきた。残念ながら「神話」「伝説」、そんな言葉はひとまずおあずけになってしまった。