先週のこのコラムで展望を行なったG2ニエユ賞とG2フォワ賞(いずれも9月12日、ロンシャン競馬場)の回顧をお届けしたい。
例年同様、7頭立てという手頃な頭数に落ち着いたG2ニエユ賞(2400m)。当日朝の段階では、仏ダービー2着、パリ大賞2着という堅実派プラントゥール(牡3、父デインヒルダンサー)が1番人気だったが、朝から昼にかけて断続的に雨が降り、Souple(重)という馬場発表になったため、泥んこの馬場で行なわれたG1パリ大賞を制した道悪巧者ベーカバッド(牡3、父ケイプクロス)の評価が上昇し、最終的には2頭がオッズ2.8倍で横並びの1番人気となった。続いてオッズ6倍でヴィクトワールピサ(牡3、父ネオユニヴァース)が3番人気、前走デビュー戦を勝ったばかりの素質馬アプレヴー(牡3、父モンスン)が未知の魅力を買われて7.5倍の4番人気、イタリアで準重賞3勝のキッドナッピング(牡3、父インティカブ)が11倍で5番人気という顔触れとなった。
プラントゥール陣営がラビット役として用意したヴィヴレリブレ(牡3、父サドラーズウェルズ)が、忠実に役割を果たして淀みのないペースで先導。 2番手がプラントゥールで3番手がベーカバッドと、有力2騎は前目の競馬となった。キッドナッピングをはさんでヴィクトワールピサが5番手で、その後ろがアプレヴーというのが前半の隊列だった。
直線に向くとプラントゥールが早めに先頭に立ち、これを目標にベーカバッドが追撃。馬体を併せての叩き合いは、ベーカバッドが頭差先着してゴール。3着以下は4馬身以上離されることになった。
実績上位で人気にもなっていた2頭が、順調に夏を越したことが実証されたわけで、彼らが本番の凱旋門賞でも上位人気に推されることは間違いなさそうである。
一方、日本から参戦したヴィクトワールピサは、直線に向いて外に持ち出した時には伸びかかる仕草を見せたものの、上位2頭を捉えるまでには至らず、あと1ハロンのあたりで失速して4着に敗れた。目標は先にあって仕上がり途上だったことで、いざ勝負にかかった時に息がもたなかったようだ。
イタリアで準重賞しか勝っていないキッドナッピングにも先着され、上位2頭に8馬身の差をつけられるという結果は、いささか物足りない気もするが、トライアルとしてはギリギリ合格点のパフォーマンスだったと思う。
ロンシャンの難所と言われる下り坂やフォルスストレートで走りのリズムを崩す場面があったが、1度経験したことで、本番ではあそこでスムーズな競馬が出来るはず。あと3週間で体調も大幅にアップするはずで、そうした1つ1つの積み上げに加え、母系に脈々と流れる欧州血脈が、現地で実戦を使われたことで覚醒すれば、8馬身は逆転不可能な差ではないと思う。
ただし、日本ダービー、ニエユ賞と、持ち前の爆発的な瞬発力が影をひそめて連敗を喫したことで、実は2000mの方が向いているのではないか、との懸念も出て来たように思う。そういう意味でも、本番は出来るだけ乾いた馬場が舞台となることを望みたい。
続いて行なわれた、古馬による前哨戦のG2フォワ賞。現地8日(水曜日)午前10時30分に設けられていたエントリー・ステージで、凱旋門賞の前売りでも1番人気に支持されていた最有力馬のフェイムアンドグローリー(牡4、父モンジュー)の回避が判明。ブックメーカー各社を混乱に陥れることになった。
凱旋門賞前のひと叩きとして、当初は、9月4日にレパーズタウンで行なわれたG1愛チャンピオンSを予定していたフェイムアンドグローリー。馬場が固いことを理由に愛チャンピオンSを回避した段階で、陣営からは「前哨戦はフォワ賞」との発表があったのだが、今度は「単なる予定の変更」という、わかったようなわからない理由で、フォワ賞もスキップしたのである。
スワ、故障かと、この段階でブックメーカーの半分以上がフェイムアンドグローリーを前売り1番人気の座から引きずり下ろしたのだが、「馬は順調。次走は直行で凱旋門賞」との声明が陣営から出て、多くの社が再び1番人気に戻す騒ぎとなった。
陣営に「単なる予定の変更」を促した「何か」があったことは間違いなく、フェイムアンドグローリーの動向は、今年の凱旋門賞を占う大きな焦点となりそうである。
6頭立てと、こちらも例年通りの少頭数となったフォワ賞。フェイムアンドグリーリーに代わって単勝2倍の1番人気に推されたのが、ロイヤルアスコットの10FのG1プリンスオヴウェールズSでG1初制覇を達成したバイワード(牡4、父パントルセレブル)だった。12Fの距離を走るのはこれが初めてで、距離さえこなせば凱旋門賞の有力候補になろうかという実力馬である。昨年の香港ヴァーズの勝ち馬で、6月のG1サンクルー大賞では牡馬に伍して僅差の3着に入っているダリヤカーナ(牝4、父セルカーク)が4倍の2番人気で、これに続くのがオッズ7倍のナカヤマフェスタ(牡4、父ステイゴールド)。前走アメリカに遠征して、モンマスパークのユナイテッドネイションSを制して初G1を手にしたシンション(牡5、父マージュ)が8.3倍の4番人気。残る2頭は重賞未勝利馬で、G2シャンティー大賞2着がここまでで最良の成績というティモスが5番人気で、ロイヤルアスコットのG2ハードウィックSでハービンジャーの2着に来たことのあるダンカン(牡5、父ダラカニ)が6番人気だった。
ニエユ賞におけるヴィヴレリブレのような、先導役を仰せつかった馬がおらず、レースはフランスによく見られる超スローとなった。我慢出来ずに押し出されるように先頭に立ったのがダンカンで、ティモスが2番手。以下、3番手ナカヤマフェスタ、4番手バイワード、5番手シンション、最後方ダリアカーナという、縦一列の並びのまま淡々とレースは流れ、馬群は直線へ。一旦は先頭に立ったティモスを内から再びダンカンが差し返したところへ、外からナカヤマフェスタが追い込み、ダンカンまで3/4馬身差に詰めよったところがゴール。ナカヤマフェスタと同じようなタイミングで外から追い込もうとしたバイワードは末脚に鋭さを欠き、脚が上がったティモスすら交わせず4着に入るのが精一杯だった。
上がりだけの競馬になったためスタミナを試す場にならず、それでいて結果も出せなかったバイワード陣営にとっては、相当にショッキングな敗戦であったはずだ。後方のまま、全く見せ場の無かったダリヤカーナも、明らかに立て直しが必要であろう。
実績上位の2頭が凡走し、ここまで重賞未勝利だったダンカンとティモスが1着と3着に来るという結果から、レース全体のレベルが低かったと判断されても致し方のないところだが、そんな中、本番を前にしたトライアル戦としては申し分のない競馬をしたのが、ナカヤマフェスタであった。パドックの段階からテンションが高く、返し馬では頭をあげて口を割る仕草を繰り返した時点ではどうなることかと思ったが、ゲートが開くとスローペースにきっちりと折り合い、ロンシャンの難所と言われる3コーナー過ぎの下りも、その後のフォルスストレートも、スムーズに通過したのには、良い意味で驚かされた。
二ノ宮敬宇調教師がレース前から、「明らかに太め」と話しておられたように、仕上がり途上であったことは明白で、残る3週間で大きな上積みがあれば、本番の凱旋門賞でも争覇圏に入ってくることになろう。