スマートフォン版へ

大地震の余波

  • 2011年03月23日(水) 00時00分
 3月11日に発生した東日本大震災は、その後、福島第一原発が津波被害を受けたことにより、放射線物質漏洩という「二次災害」をもたらす結果になった。のみならず、関東地方では消費電力を賄えない事態に陥り、計画停電という新たな措置に踏み切らざるを得なくなっている。

 しかも、この電力不足は、冷房がフル稼働する今夏のみならず、秋を過ぎて冬になっても解消する目処が立たないらしい。

 3月22日付け朝日新聞社のウェブサイトによると、今回の大震災によって被害を受けているのは福島第一原発だけではなく、同じ福島県下にある広野火力発電所(広野町)と茨城県東海村の常陸那珂火力発電所も現時点で復旧の見通しが立たない状況なのだという。この二つの火力発電所は、ほぼ福島第一原発と同程度の発電力を持ち、これらを合わせると1000万キロワット近い電力を生み出していたらしい。

 一方の消費電力は、東京電力が供給している関東地方全体で2800万世帯。夏場のピーク時には6000万キロワットに達する。また冬場のピークでも5000万キロワットに上る。

 しかし、現時点での発電力は3500万キロワット。現在休止している小規模火力発電所を再稼動させたり、西日本や北海道から送電するにも限界があるらしく、根本的な電力不足解消には至らぬ、とのこと。夏場で約1000万キロワットもの供給不足が予想されるらしい。

 大震災の余波はさまざまな部分に波及している。原発事故による放射線物質の飛散に加え、こうした電力不足もまた、国の経済活動に大きく影響する。「行列」「疎開」などという用語は歴史の教科書でしか知らなかったが、大震災が発生してからは現実の問題として私たち国民に重くのしかかってきている。

 「灯火管制」や「ガソリンの一滴は血の一滴」など、戦時中の標語がそのまま今の私たちの実生活に直結しているような気がしてくる。今は「非常時」なのである。

 そんな中、JRAは、先週より競馬再開に踏み切った。被害を受けていない西日本中心に、かなりの変則日程を組み、これから本格化するクラシックシーズンを乗り切ろうというものだ。

 果たしてこの時期の再開が是か非かについてはさまざまな意見があるだろう。JRAとて、世論を無視することなどはできず、今後の日程もまたあくまで流動的である。皐月賞は中山での開催を見送り、今のところ東京に変更する予定らしいが、その東京開催とて、現時点では確定しているわけではない。公式発表では「京都競馬場への変更もあり」となっており、最悪の場合には関東地方での競馬開催そのものを断念せざるを得ないことも念頭に置いているようだ。

 福島開催に関しては、もちろん再開の目処は立っておらず、少なくとも原発事故の処理が一段落するまでは被害箇所の修復すら難しいだろう。

 同じく、岩手競馬に関しても、今のところ新年度の開催予定はどうやら未定のままだ。水沢競馬場で開催される予定であった第14回岩手競馬(3月19.20.21、27、28の5日間)は中止されることになったものの、月が変わればすぐに今年度の開催が4月第一週よりスタートすることになっていた。しかし、現状ではおそらく予定通りに開催に漕ぎ着けるのは厳しいであろう。念のため岩手県競馬組合に問い合わせしてみたのだが、未定との回答であった。

 岩手競馬の場合は、周知の通り、競馬場そのものよりも、県内を中心に東北各地に展開する場外施設が被害を受けており、何より、沿岸各市町村が軒並み壊滅的なダメージを蒙っている。とても競馬どころではない、というのが多くの県民の反応ではあるまいか。家と仕事を失い、途方に暮れる人々のことを思うと、再開する時期もまた判断が難しい。

 戦後世代に限ると、誰もが経験したことのない激甚災害が発生してしまったわけで、まさしく未曾有の国難と表現する他なく、競馬もまた、その圧倒的な影響下から逃れることができずにいる。

(写真・調教進む2歳馬たち)

 生産地では今日も馬運車が走り回り、来年に向けての交配がピークを迎えつつある。また今年デビュー予定の2歳馬たちも春の訪れとともに調教が徐々にペースを上げてきている。ここにいると、日々の生活には何ら支障が出ていないのだが、競馬を取り巻く環境が少しずつ地殻変動を起こしつつあることだけは感じる。

 この大震災の余波の大きさは私たちの想像をかなり超えている。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング