1996年以来、久しぶりに「中山コース」で行われた早くも秋に向けての出発点となる3歳重賞。可能性にあふれる、非常に楽しみな逸材が出現した。3戦3勝でこのレースを制したのは、2007年のロックドゥカンブ(父レッドランサム)につづいて、史上2頭目の浅いキャリアでの優勝馬になる。そのロックドゥカンブは、秋の「セントライト記念」をステップに、5戦目の「菊花賞」で3着と好走している。
新星フレールジャック(父ディープインパクト)は、遅れて5月7日にデビューしたばかり。未勝利戦1800mを1分46秒8。楽々と上がり33秒6で抜け出す破格の勝ち方示したあと、2戦目の1800m(不良馬場)も快勝。かかり気味になるなど若さを見せながらの2連勝だった。
今回は初の遠征競馬。のびのび走れる京都1800mの外回りとは異なり、起伏もあってコーナー4回の難しい中山。陣営も「レース経験の乏しさ」を心配していたが、輸送で10kg体が減って「436kg」だった。2戦目ほどではなかったというが、カリカリして気負いを前面に出しかねない仕草も示し、決して不安なしの状態ではなかったろう。
だが、無理なく一定ペースの中位で流れに乗り、初の直線の坂も難なくクリア。先に抜け出したマイネルラクリマを射程に入れてからは、追って抜け出したというより、少しささりつつも馬なりにも近いフットワークで駆け抜ける完勝だった。
体の大きさも、全体のバランスも、ほかの馬よりここがいいと、どこといって強調できるところがない点でも、父ディープインパクトにかなり似ている。秋は「神戸新聞杯」のレース内容をみて、菊花賞か、中距離路線にするか決める予定という。出発こそやや遅くなったものの、急速に輝きを増す「新星」が出現した。
雨の影響がなくなって、逆に乾いて硬い印象さえ与えた芝は「高速コンディション」。前日からハイペースでも前が止まらない芝だった。スタート直後からすべてハロン「11秒4~12秒3」に統一された典型的な一定ペース。好スタートから、先手を奪ったアバウト(父ムーンバラッド)の作った流れは前半「47秒8-59秒7…」。この週にしてはかなり遅い平均ペースになったが、うまくこの流れに乗ったのはマイネルラクリマ(父チーフベアハート)。
4コーナーを回って無理なく抜け出し自身の上がり3ハロンは「35秒0」。非の打ちどころなしのレースを見せたが、フレ―ルジャックの資質が大きく上回っていたから仕方がない。ふつうなら完勝の1分47秒0である。この楽なペース追走だから、欲をいえば追い出してもっと鋭いフィニッシュにしたいが、ちょっと渋い持ち味がおそらくこの馬の身上。2000m、さらには2400m級の方が合う可能性が大きい。
高速馬場を考えると、マイネルラクリマと同じような先行態勢に持ち込みたかった人気のカフナ(父キングカメハメハ)は、ちょっとスタートが鈍かった。しだいにポジションを上げる形から、最後は差を詰めて3着まで押し上げたが、この形では持ち味全開ではなかったろう。上がり3ハロンの34秒4の数字は勝ったフレ―ルジャックと同じでも、とくに速い脚を使った部分はなく、前半置かれたのが痛い。ずっと連戦を続けているが、デキは一段と上がっている。このあともタフな成長力に期待したい。
気配良化のターゲットマシン(父ディープインパクト)は、理想の位置取りからスパート態勢に入ったが、見せ場はそこまで。今回は迫力負けだった。夏から秋にかけ、もう少しパンチを加えたい。人気のショウナンパルフェ(父アグネスタキオン)は、1コーナーで逸走(逃避)したプランスデトワ―ルに直接ぶつけられる不利。立て直して追走したものの、残念なことに能力発揮のレースとはならなかった。
逃避したプランスデトワ―ル(父ディープインパクト)は、いったいどうしたのだろう。コーナーで手前が変わらなかったとかではなく、急にレース参加を拒否するような逸走だった。若い競走馬には決して珍しいことではないが、もうキャリア7戦の注目の期待馬だから、これは陣営も立て直しに苦心しそうである。
可哀想だったのはショウナンパルフェと、はじき飛ばされて競走中止にまで追い込まれたディアフォルティス。こちらは悲劇だった。馬もショックだろうが、人気薄の伏兵だったとはいえ、馬券を買っていたファンも無念である(残念ながら、ゲートを出たか出ないうちに落馬してまったく競走に参加していないケースと同様、こと競馬ではゲートが開いてからの出来事には馬券の救済はない)。
秋に向けて大きな展望が開けた新星と、きわめて残念な結果になった馬と、あまりにも明暗両極端のレースだった。