アルムダウンジルチュという7歳牡馬は、脚元に爆弾を抱えています。だから2コーナーで手前を替えるまでは、すごくハラハラするんですよ。だから細心の注意を払って、ハミの感触を確かめます。
「ケンチャナヨ?(だいじょうぶかい?)」
「ケンチャンスミダー(大丈夫だよー)」
アルムダウンジルチュは右前脚に屈腱炎を発症し、肝細胞治療を受けてレースに帰ってきました。その影響でしょうか、彼は調教でもレースでも、ずっと左手前しか走りませんでした。そこで調教時に右手前で走らせてみたところ、ぎこちなくはあったけれど手前を替えました。ところが。
歩様がガタガタになってしまったんです(汗)。よかれと思ってしたことが、仇になってしまったのか。ペク・クァンヨル調教師に、「この馬はウチダさんとチング(友達)だから、この馬に合わせて乗ってもらえればいい」と、信頼を寄せていただいているというのに……。
でも、われわれには運がありました。出走を予定していたレースが、頭数が少なくて不成立となり、2週間先送りになったんです。その間の調教で、歩様の乱れがなくなりました。
「右脚が悪い馬は、右手前で走らせたほうが、右脚に負担がかからない」
これは宇都宮時代の師匠である室井康雄さんの教えです。
右手前に慣れたアルムダウンジルチュは、持ち前の頭のよさと闘争心を発揮して、再び勝利を重ねるようになりました。そして。
7月8日(金)、釜山競馬の最終レース。釜山所属馬の最多勝利新記録となる「通算19勝」を達成しました。
今回は夏負けの兆候が出ていましたし、向こう正面で背後の馬と接触するアクシデントもありました。後ろ脚から血を流しながら、新記録を樹立したアルムダウンジルチュ。「美しい疾走」という意味の名を持つ彼は、本当に素晴らしい「親友」です。
日本では10年間に渡って最多勝利記録を保持していたブライアンズロマンに騎乗させていただき、釜山ではアルムダウンジルジュという素晴らしい馬とコンビを組ませていただいている。騎手冥利に尽きますし、不思議なめぐり合わせですね。
アルムダウンジルジュとブライアンズロマンの共通点は、とても賢くて、少し臆病で、無理をしないところです。無理をしないのは、僕も同じですね。だから呼吸がぴったりなのかも(笑)?
そして、脚元の弱さを精魂こめてケアするスタッフの存在も、共通点です。ブライアンズロマンも、室井調教師がつきっきりでケアしていましたからね。
僕は8月いっぱいで釜山を離れるので、残り少なくなっていた親友との時間を、大切に過ごしたいと思っています。
10日(日)には、メイセイオペラ産駒のソスルッテムンと、準重賞に臨みました。KRAカップマイル(韓国の皐月賞)のように勝利をつかむことはできませんでしたが、古馬と戦って3着に食い込んだのですからたいしたものです。調教も緩めでしたからね。
そうそう、このレースを勝ったカムンデジャングンというセン馬も、メイセイオペラ産駒なんだそうです。済州島で種牡馬生活を送っている岩手の雄・メイセイオペラ。韓国における初年度産駒、活躍してますね。
17日の日曜日、釜山でソウルとの交流重賞が行われます。僕の騎乗馬は残念ながら回避することになってしまいましたが、ソウルから福山の野田誠くんや高知の別府真衣ちゃんが乗りに来る予定です。
釜山で奮闘している名古屋の山本茜ちゃんを含めて、韓国で騎乗する4人の日本人ジョッキーが勢ぞろいするわけですから、夜は美味しいお酒が飲めそうですね(^w^)