メキメキと腕を上げた若手ジョッキーとして、ピンクな話で何度かピックアップしてきた菅原俊吏君。もう一皮剥けてトップに立つには、多彩な攻め方を身につける必要があります。そこで先日、彼にこんなアドバイスをしたんです。
「外を回して勝つ技術は見事だから、今度は内をさばいて勝つ技術を身につけなきゃいけないな。内を回るのは息苦しいから外に逃げるんだろうけど、そこを我慢して、馬と一緒に呼吸をしながら内を回って来いよ」
彼はコーナーでのペース配分が上手く馬に息が入るので、外を通っても馬への負担は少ないのですが、雨が降って内が軽いときなどは、やっぱり内を通ったほうがいい。また、小回りの水沢コースはコーナーが急なので、外を回るとロスが生じます。もともと力強い追い方をするジョッキーですから、これでインコースからの器用な攻め方を覚えればオニキン(鬼に金棒)でしょう(笑)。
10月9日の盛岡5R。僕はワンダーフジという4歳牝馬に騎乗しました。南関東では勝利を挙げられなかった彼女は、この秋に岩手へ移籍してきたばかり。転入初戦で手綱を取った陶文峰君が前半の競馬で怪我をして入院したため、僕が2戦目の鞍上を務めることになったんです。
最近は後ろからの競馬が続いていた彼女ですが、この日はまずまずのスタート。他に行く馬がおらず、押し出されるような形で先頭に立ちました。
向こう正面から3コーナーにかけての上りから、3〜4コーナーの下りへ。ワンダーフジは自分から積極的に進んでいきます。
普段なら抑えるところですが、ちょっとクセのある馬だと聞いていたので、気持ちをそこねないように、馬まかせに行ってみることにしました。ところが。
道中のペースがキツかったせいか、4コーナーで手応えが怪しくなってしまいました。
いつもなら追い出し始めるところです。しかしここで追い出したら、ゴールまで持ちません。
僕はぎりぎりまで追い出しを我慢しようと、後ろの馬を警戒しました。しかし、外から馬が来ているような気がして2回も振り返ったのですが、馬の姿は見えません。
ハッと気がついたときには、内から俊吏君の馬が迫っていました。この日は内が重かったので、僕は必要以上に内を開けて走りやすいところを通っていたんです。だから余計に気づくのが遅れてしまいました。
並ばれる前に追い出したのですが…なすすべもなく俊吏君にかわされてしまいました。
見栄えの悪いレースをしてしまいました。
早く追い出していたら、もっと負けていたとは思うのですが、もっと早い段階で、内から馬が迫って来ている気配に気づくべきでした。
検量所で後検量を終えた僕は、裁決室に電話をかけました。
「今のは油断負けでしたね」と僕が言うと、「こちらでよく検討しますので、少しお待ち下さい」と裁決委員。
その後、裁決室への呼び出しがありましたが、裁決室には挨拶にしか行ったことがないので、皆川麻由美ちゃんにエレベーターまで案内してもらいました。すると麻由美ちゃんに、「自分で自首しましたね」と突っ込みを入れられてしまいました(笑)。
裁決室にて、「何か言いたいことはありますか?」と裁決委員。
「何もありません」と僕。
何を言ってもいいわけになるし、裁決委員の裁定に任せるしかありません。
5分くらい廊下で待ってたかな? 再び呼ばれて裁決室に入ると、「騎乗法不適切のため、10日間の騎乗停止処分」が言い渡されました。騎乗停止処分とは別に、当日の残りの騎乗も、すべて騎乗変更になりました。
そんなわけで、10月はレースに乗ることができません。笠松のトウホクビジンに騎乗予定だった「絆カップ」をはじめ、10日の「岩手競馬を支援する日」のレースにも乗ることができず、本当に残念です。岩手での騎乗を楽しみにしてくださっていたファンのみなさんや厩舎関係者の方々に、申しわけない気持ちでいっぱいです。
僕が油断していたのは事実ですから、処分を重く受け止め、反省いたします。近々、東京の地方競馬全国協会で講習を受け、反省文を書いてきます。
あのレース、俊吏君の騎乗馬は持ち時計がよかったからマークしていたのに、「俊吏は外しか回らないだろう」という思い込みが、命取りになりました。
「だろう運転」は、車の運転に限らず競馬でも悪影響を及ぼすんだと痛感しました。
僕のアドバイス通りに、内を突いて勝った俊吏君。僕がアドバイスしたジョッキーが勝って嬉しいけれど、そのアドバイスに自分が負けたのは、ちょっとフクザツ…(-_-;)