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ジョッキーベイビーズ2011(2)

  • 2011年11月16日(水) 18時00分
  • 4
 前週に続いてジョッキーベイビーズ(以下、JB)のことを書く。

 6日朝8時。予定通り出場する8人が乗馬センターに集合した。この日の天候は降水確率80%の雨予報であった。朝から靄がかかったように空一面が雲に覆われていて、いつ降り出してきてもおかしくない。ただし、気温は比較的高く、後は何とか本番まで天候が持ってくれたらと思った。

 8人が集合して間もなく、乗馬センターに岡部幸雄氏が姿を現した。岡部氏は最優秀技術賞の審査委員長を務める。昨年は都合によりその役を柴田政人調教師が務めたが、今年は一昨年の第1回に続き、岡部氏が務めるのである。

「大観衆が見ている中での競馬となります。みんな悔いのないように頑張って下さい」と8人を激励した。

岡部幸雄氏が8人を激励
岡部幸雄氏が8人を激励

 練習がまた始まった。前日にある程度まで乗り込んでいるので、当日の朝は調整程度である。しかし、本番まで残り時間が刻々と少なくなってきており、8人の表情も徐々に緊張感が漂い始めた。

 前日にはいなかった応援団も徐々に増えてきた。取材陣も今日は全員が背広にネクタイ姿である。

 やや軽めのメニューで練習が一度切り上げられ、その後は騎乗馬の手入れをしたり水を飲ませたりする。騎乗する際に邪魔にならぬようにとタテガミを編む親子もいれば、一心に馬にブラシをかけ続ける子もいる。作業が終わり、その後小一時間ほどの休憩時間となった。

 しかし3回目となる今年は、さすがに乗馬センターまで足を運ぶ人の数が減ってきている。回を重ねる毎に注目度が落ちてきたとは思いたくないが、残念ながら取材陣は限られており、テレビカメラもグリーンチャンネルのクルーだけである。

 8人はそれぞれ家族と談笑したりしながら思い思いの時を過ごす。次に集合の合図がかかると、いよいよ本番に向けての騎乗となる。

 ゼッケンを手にしての記念撮影が行われた。2番木村和士君の掛け声で「頑張るぞ、おーっ」と一斉に右手を突き上げ、ガッツポーズをした。

 11時20分。再び8人が騎乗し、各馬場に出て行く。勝負服に身を包み、輪乗りで待機する。本馬場では第4レースが行われており、それが終わるといよいよJBである。

 応援団が一団となって先に外埒沿いをウイナーズサークルまで移動する。歩いている間、場内にアルゼンチン国歌が流れてきた。

 アナウンサーがJBの告知を始める。大型ビジョンに出場する8人が順に紹介される。人馬が誘導馬を先頭に一列で乗馬センターから本馬場に入ってくる様子が映し出される。

 残り200mのところでくるりとUターンし、スタート位置まで戻る。場内にGIファンファーレが鳴り響く。スターターを務めるのは、昨年の第2回でグッピー号に騎乗し優勝した渡邊亮介君(関東代表)。

 渡邊君が旗を振り、カウントダウンが始まった。10秒前から1つずつ数字が少なくなって行く。8人は緊張の極限状態になっているだろう。「3…、2…、1…0! かなりばらついたスタートとなったが、8騎が係員の手を離れ、馬場をこちらに向かって進んでくるのがビジョンに映る。

各馬がスタートを切る
各馬がスタートを切る

 ゴール前に陣取っていると、スタート位置である残り400m地点は目視できない。ゆるやかな坂となっている東京競馬場の直線馬場を8騎がバラバラの展開のまま駈けてきた。

 馬場のやや内側を5番永井孝典君(コリス号)が進んでくる。それを離れた大外から3番石井李佳さん(さくら号)がどうやら交わしたのが見えた。その後ろはやや離れていてしっかり確認できない。

 そのまま石井李佳さんがゴール板を駆け抜けた。8馬身差の2着に5番永井孝典君、そこからさらに9馬身離れた3着が6番名倉賢人君(レインボー号)。4着7番出口莉穂さん(ユキノヒビキ号)、5着8番吉永彩乃さん(ブッチー号)。今年の北海道組は2人とも着外に敗退した。

 昨年のレースは際どい勝負となったが、今年は一言で言うとかなり「大味」なレース展開で、とりわけスタートの不揃いが気になった。

 1着の石井李佳さんは弦巻騎道スポーツ少年団(馬事公苑)に所属する中学1年生。「抽選の時からさくらを引きたいと思っていました。スタートはあまりうまく行きませんでした。外に斜行したことが反省点です。内側の永井君が見えて、抜いたことは分かっていたんですが、勝てたかどうか自信がなかったのでガッツポーズはできませんでした」と語った。

優勝の喜びを語る石井さん
優勝の喜びを語る石井さん

 その一方で、今年も悔し涙を流す出場者が何人かいた。わずか400m のレースながら、優勝馬と最後尾の8着とでは、圧倒的な大差がついてしまった点が何とも悔やまれる。おそらく、「技術以前に、まともにレースをさせてもらえなかった」ことに対しての複雑な感情があるのだろう。改めて、一斉に揃ったスタートを切ること、そして能力の近いポニーを8頭用意してレースに供することの難しさが浮き彫りとなった気がする。

 とは言いながら、このJBは、全国各地で乗馬に勤しむ少年少女にとっての「憧れの舞台」であることに変わりはなく、3回目を迎え、確実にここが目標として認識されるようになっている。不備な点は今後改善していけばいいわけで、なんとか継続されることを願うばかりである。

レース後、吉田豊騎手らと記念撮影
レース後、吉田豊騎手らと記念撮影

 なお、レース後の表彰式では、優勝者石井李佳さんとともに、最優秀技術賞には8番吉永彩乃さんが岡部幸雄氏によって選ばれた。

 また、8人はレースを観戦していたアルゼンチン共和国の駐日特命全権大使であるラウル・デジャン氏より招待を受け、しばし歓談の時を過ごしたことも報告しておきたい。これは3回目にして初めて実現したサプライズで、少年少女がポニーに乗ってレースを行うことは、国境を越えて多くの人々に感動を与えるのだと改めて思い知らされた次第である。

アルゼンチン大使を囲んで(左から2、3人目が大使夫妻)
アルゼンチン大使を囲んで(左から2、3人目が大使夫妻)

 終わってみれば、幸いなことに、心配された雨はついに降らずに済んだ。これが一番のツキであったかも知れない。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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