距離1400mのわりに飛ばす先行タイプはなく、好スタートを切ったトウショウカズン(父クロフネ)が途中から行き脚のついたタイセイレジェンド、オオトリオウジャに先を譲るように行かせる展開。前半3ハロン35.2秒は最近10年間では9番目に相当するラップだったから、どちらかといえば先行タイプに有利な流れ。また、流れが緩かったため、最初から馬群はほぼ一団にも近い形で展開し、切れ味が生きてこそのシルクフォーチュン(父ゴールドアリュール)向きの接戦だったともいえる。
勝ったシルクフォーチュン。オープンに出世した4歳時の4連勝はすべて距離1200mのダート戦。直線一気の猛烈な爆発力が身上で、とてもダートとは信じられない上がり3ハロン34.2秒で1000万条件を追い込んで勝ち、続く条件再編成の1000万特別では、上がり34.1秒の追い込みを記録している。
5歳時の昨年は少し距離をのばし、初重賞制覇は7月の1400mのプロキオンS。今回も対戦したダノンカモン以下を一気に差し切って、自身の後半3ハロンは34.9秒だった。秋にはさらに距離をのばし、1200~1400m時より早めに動いて1600mのGI南部杯を勝ったトランセンドから0.1秒差の3着。
こういうレース運びの脚質とあって、オープンに上がってからは、今回と同じように最有力馬ではあっても1番人気になることはない。そんな独特のキャラクターが定着している。その少し気楽な立場も味方しただろう。今回は追い込みに徹した直線の強襲があざやかに決まった。上がり3ハロンは34.9秒。
縦長になるようなハイペースではなく、終始一団にも近い展開が、圧倒的な爆発力をもつシルクフォーチュン(血統背景はヌレイエフの3×3)向きのレースだったとはいえるが、これで東京コース初勝利。昨年のフェブラリーS小差4着、1600mの南部杯、武蔵野Sともに2着のダノンカモンを完封した自信は大きい。
母シルクエスペランサ(父アルワウーシュ)の半弟にあたる2000年生まれのシルクブラボー(父コジーン)は、大器を思わせながら脚部難もあって大成できなかったが、こちらは丈夫。目標とするフェブラリーSでもチャンスありだろう。10月の南部杯が1分34秒9で前出のようにトランセンドとたった0.1秒差。確かに展開に注文はつくが、逆に、負担になるような人気の重圧を受けるタイプではないのが、この馬の強みでもある。藤岡康太騎手とのコンビは5戦[2-0-3-0]。凡走はまだ一度もない。
人気のダノンカモン(父シンボリクリスエス)は、同じ6歳のライバル=シルクフォーチュンとの比較から、5着にとどまる力関係ではないが、一団の馬群の中で終始もまれる展開が厳しかった。また、2か月ぶりの今回は、追走したとはいえ追い切りで3歳ハランデ-ル(土曜の梅花賞7着)に直線の手応えで見劣っていたあたり、完調というにはもう一歩だったろう。
素晴らしい上昇を示したのは、5歳トウショウカズン。前回、すんなり行けたわけでもないのに、苦しいインからこじあけるように大和Sを制したレース内容から急上昇は明らかだったが、11月の1600万下の銀嶺S7着時とは別馬のような粘り強さだった。好スタートから、いったん下げた田辺裕信騎手の好騎乗もあったが、課題のあった東京コースで結果を残せたからもう本物だろう。残る課題は距離だけである。
惜しかったのは、初ダートの3歳春にこの東京ダート1400mを1分22秒8で激走した記録をもつテスタマッタ(父タピット)。たしかに2000m級でも良績を残した時期はあるが、行きたがる最近はこういう距離でこそ、を改めて示した。ダートのオープン馬は続けて同じコースの同じ距離に出走できるローテーションは組めないが、1400mで好走したから、また距離を延長すればかかってしまう危険がある。難儀なタイプである。
昨年の勝ち馬セイクリムズン(父エイシンサンディ)は、太め残りとかではなく、当日になっても好調時の気力の充実がみられなかったのが敗因と思える。馬体も動きも別にどこといって少しも悪くないが、なぜかダート巧者らしい迫力を欠いた印象ばかりが残った。
上昇を期待されたヒラボクワイルド(父ワイルドラッシュ)は、ダノンカモンと同じでずっと密集した馬群の中。器用に馬群をさばける馬ではなく(同じ父をもつトランセンドとこの点は似ている)、今回は力負けというより、能力をフルに発揮できなかった一戦だろう。
近年、この根岸S組は1ハロン異なるフェブラリーSでめったに好走していないことは知られるが、南部杯1600mの内容から、今回勝ったシルクフォーチュン、ひとたたきして良化するだろうダノンカモンあたりは、今年の出走馬からみて、十分、有力争覇圏と思える。