中央競馬における1600mのダートコースは、このフェブラリーSの行われる東京競馬場オンリー。広大なコースで、回るコーナーは2つだけ。特殊性の高い舞台設定に加えて、発馬地点から約150mほど、芝コースを走ることになる。最大のポイントにして最初にクリアすることが要求されるのが、この芝の部分でいかにスピードに乗っていけるか、ということだ。
スピードに乗りやすいということは、ここでダッシュ力を生かすことができれば、主導権を握りやすいということ。逆に後手を踏んでしまうと、ライバル勢との差が一気に広がる。つまりダートコースに入る前に、大きく明暗が分かれてしまう。
当コースで着目すべきは、もうひとつ。トータルの走破時計が速く、上がりのレベルも高い。東京の芝のマイルコースは、中距離でも対応可能なタフさが求められる。ダート戦でも基本は同じだが、砂の猛者陣は先行タイプが多い。主力組の脚質が似通っている分、芝よりもむしろスピード指向の馬が活躍しやすい。具体的に言えば、スピード持続型が台頭するステージである。
発馬地点の芝。スピード決着に対応可能な、持続型の脚力。冬のダート王の座に就くためには、この2つを克服することが不可欠となる。
まず一昨年の覇者・エスポワールシチーに触れたい。父のゴールドアリュールは、03年の勝ち馬。つなぎが柔らかく、身のこなしに柔軟性があった。芝の舞台でも対応可能な特性は産駒にも伝わっており、冬場に良績が集中している。ダートホース特有の硬さが、寒い時期でも出にくいのだろう。エスポワールも例外ではなく、同じ東京マイルコースで行われた昨秋の南部杯でも、抜群のダッシュ力で芝の部分を駆け抜けた。母の父・ブライアンズタイムも、このコースとの相性がいい。
血のバランスが良好なうえ、エスポワール自身の変化も無視できない。シーズンを重ねるにつれて、体型が変わってきているのだ。胴が短くなり、中距離系のボディーが薄れている。集中力の持続も短くなっている印象が強く、コーナーが2つの当コースがジャストフィットする可能性は高い。まして、父の主戦も務めた武豊が鞍上。死角という点では、最も少ないのではないか。
ただ、すべてを覆す材料がある。世代における、レベルの差だ。
頂上決戦ともなれば、有力馬の力量は拮抗している。同世代の層の厚さが、最後にモノを言うことは少なくない。エスポワールが5歳で制した10年。2、4、5着を4歳が占めている。11年は5歳のトランセンドがV。4、5着も5歳だった。スピード指向が強い舞台だけに、例年4、5歳馬の勝利が多い。だがここ2年の傾向から、今年は層の厚い6歳勢を中心視すべきだろう。たたき上げのタイプも多く、容易には崩れない世代といっていい。
先陣を切ることで集中力が増すトランセンドにとって、エスポワールの存在は厄介だ。まして15番枠での芝スタートはきつい。コーナーが4つの舞台で本領を発揮する特徴を踏まえても、今回はスピードとスタミナのバランスが絶妙なワンダーアキュートを頭から狙ってみたい。
つなぎが柔らかく、発馬地点の芝でアドバンテージを握ることが可能。実際、同じ設定の武蔵野Sを制した実績があり、それが3歳時というのが、この馬のポテンシャルの高さをすでに証明している。加えて、実戦を使われながらボルテージを上げていくタイプ。父のカリズマティックの産駒はマイル前後で最も安定した成績を重ねており、ストームバード系の父系は、07年の覇者・サンライズバッカスと同じだ。爆発的な血の背景があり、母系はスタミナに富む。適性の差が出やすい当コースにおいて、文句のない下地を持つのだ。エスポワールを見ながら進むことができる、隣りの枠もいい。
本命はワンダーアキュート。エスポワールシチー、トランセンドが続き、穴はテスタマッタ。この馬は過去、同じ騎手の連続騎乗は2回が最高。初めて3回続けて乗るジョッキーが岩田なら、大外枠でも無視はできない存在になる。