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週刊サラブレッドレーシングポスト

  • 2003年02月04日(火) 17時20分
 繁殖シーズンを前にしたケンタッキーから、気懸かりなニュースが伝わってきた。年が明けて以来、早産を起こす繁殖牝馬が目立って増えているというのである。

 ケンタッキー大学の家畜疾病診断センターの発表によると、1月1日から27日の4週間にセンターに報告された早産の件数は134例にのぼり、前年同時期の99例と比較すると、35.4%も増えているのである。

 ケンタッキーにおける早産や死産というと、誰もが『ケンタッキー症候群』と呼ばれた2年前の大流行を思い出すが、現在のところ当時の流行との関連は確認されておらず、センターでは更なる情報収拾と原因の解明に全力を挙げているところだ。

 もし今回の早産増加が『ケンタッキー症候群』と関連のあるものであるとしたら、生産者にとっての本当の恐怖はこれからやってくることになる。2年前の流行の際にも、出産間近の繁殖牝馬が流産や死産を起こして、およそ500頭の当歳馬が命を落としたが、更に被害が甚大だったのが、この年に種付けして受胎が確認されたばかりの繁殖牝馬が起こした早期流産だったのだ。このパターンで、およそ2000頭の牝馬が早期流産し、この世代の産駒数が大きく減少することになったのである。その世代は現在1歳となっているが、上場馬の確保が困難との理由でケンタッキー・ジュライセールが開催休止に追い込まれるなど、アメリカの馬産界に甚大な影響を及ぼしつつある。

 『ケンタッキー症候群』の最大の問題は、流行から2年近くが経過した現在でも、はっきりとした原因が特定されていない点にある。複数の研究機関や獣医師グループから異なった見解が出されたのち、ワイルドチェリーの毒素がテントキャタピラー(てんまく毛虫)を媒介として繁殖牝馬の放牧地に入り込み、これが流産を引き起こしたというのが最も有力な説となったが、つい最近もテキサスの研究グループが、ワイルドチェリー説を否定する論文を発表したばかりである。

 地元のケンタッキー大学では依然として、ワイルドチェリーとテントキャタピラー犯人説をとり、テントキャタピラーを根絶するにはふ化する前の卵の段階で殺してしまうのが肝要で、殺虫剤としてはビフェンスリン・タルスターと呼ばれる農薬が最も効果的である等の、地元生産者への勧告を行っている。

 いずれにしても、早期流産の再流行などという事態になれば今度こそ死活問題となるだけに、ケンタッキーの生産者たちはかつてない緊迫感のもとで繁殖シーズンを迎えようとしている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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