四月と言えば「花まつり」、生まれたばかりの釈迦は、四才に七歩あるいて右手を上げて天を指し、左手を上げて地を指してこう言ったという、「天上天下唯我独尊」と。これは多くの人が知っている。
釈迦の誕生日の四月八日には、水盤に釈迦像を安置し、参詣者は甘茶を頭上にそそぐ。花で飾った小堂を作って、その中に水盤を入れるので、この日を「花まつり」とも言っているが、正式には「灌仏会」或いは「降誕会」と呼んできた。
では、「花まつり」は単に釈迦の誕生を祝うだけの日かというと、必ずしもそうではない。「天上天下唯我独尊」の言葉の意味を再確認する日なのだ。
この言葉が、釈迦のみならずすべての人間の本性が尊いということを説いたものだと知って以来、人間の尊厳を高らかに宣言した「天上天下唯我独尊」は、もっと大きな意味を含んでいると考えるようになっていた。つまり、生きとし生けるものすべての命の大切さだ。一年に一度、それを再確認する日が「花まつり」ということになる。
今年は、その日に桜花賞があった。五大クラシックレースの第一戦だ。サラブレッドとして生を受けたこの健気な生きものが、生涯に一度だけ戦うことができるのがクラシックレースだから、この舞台に立てたものは幸運であり、同世代のエリートたちと言える。そこまで到達できなかったものの方が圧倒的に多いのだから、出る出ないということよりもっと大事なことがあるのだ。生きとし生けるものの命の大切さだ、栄冠に輝いたもの、敗れて無念の情に泣いたもの、いずれもクラシックレースの桧舞台に立てたのだからそれでいいではないかという考えも成り立つ。レースの結果をつきつめて考えすぎないこと、もっと大きな、生きものの尊厳を宣告した「天上天下唯我独尊」へ思いを馳せ、広い気持でクラシックレースを味わいたい。