松岡正海騎手、石橋脩騎手、津村明秀騎手、若手の嶋田純次騎手、いずれも次世代の関東を担う有望な騎手たち。最終回の今回は、森山さんだから知る4名の魅力、そしてエージェントとしての夢を伺います。(6/18公開Part3の続き)
『松岡騎手との濃い関係』
赤見 :担当されている4名の騎手それぞれに競馬での持ち味があると思いますが、それに合わせて乗り馬を選ぶこともあるんですか?
森山 :厩舎側から「こういう馬だから誰々に」という依頼をいただくことはありますが、僕自身はあえてイメージは持たないようにしています。というのも、僕は4人みんな上手だと思っているので。勝ち負けになるレベルの馬に騎乗できれば、みんな結果を出せると思っています。

松岡騎手の魅力は?
赤見 :みなさんに騎手としての魅力を感じているんですね。森山さんから見た松岡騎手の良さはどういうところですか?
森山 :ここぞという時に勝つ勝負強さですね。彼はビッグマウスですけど、もちろんこの中にはリップサービスも含まれていると思いますが、それで自分を追い込んでいるんだと思います。あと、腹が据わっていて大胆な競馬ができるところも、彼の持ち味だと思いますね。
赤見 :津村騎手はどうですか? 「ずっとうまいと思っていた」っておっしゃっていましたが?
森山 :津村は本当にうまいと思うんです。ただ、うまく乗ることと勝つことはイコールではない。それこそ同じ馬に乗ったら、同期の吉田隼人騎手や川田将雅騎手にも負けないと思うんですが、そういう良い馬に乗るにはまず厩舎関係者から信頼されて、そして実績を残さないといけないですからね。津村は普段もそうなんですが、レースでも優しすぎるところがあるんだと思います。そこで勝負にこだわれるようになれたら、もっと勝てると思います。
赤見 :本当、センスは抜けている感じがしますもんね。去年から担当になった石橋騎手は?

堀調教師の影響が大きい
森山 :石橋は考えて乗るタイプで、シミュレーションも非常によくしていると思います。レース前には馬場を歩いて「内が伸びる、外が伸びる」というところも敏感に意識して乗っています。その辺は、堀(宣行)調教師の影響が大きいのかなと思います。
赤見 :堀厩舎の信頼を得て乗り続けるのはすごいですよね
森山 :堀調教師が石橋を買ってくださっているようで。それこそ石橋のことを弟子のように思っていただいているようで、不甲斐ない内容で負けた時などは厳しい意見を言われますが、他厩舎の馬でも完璧な騎乗で勝った時には「良かったな」って喜んでくださいます。
赤見 :そして、若手のホープ嶋田騎手は?
森山 :いい意味で「何で勝つんだろう」って。例えば、松岡にしろ津村にしろ石橋にしろ、見ていて随所に光るところを感じるんです。そういうところはまだつかめないんですが、なんだか勝つ。でも、勝てることは能力ですからね。あと、スタートではまず出遅れないので、減量の特典である前にいって勝つというのにつながっていると思います。
赤見 :なるほど。森山さんの選んだ馬が騎手の成績を左右して、その成績が森山さんを左右する、まさに一心同体ですよね。
森山 :そうですね。勝てたら本当にホッとしますし、負ければ落ち込みますしね。
赤見 :勝てない時に自分を責めちゃうこともありますか?
森山 :同じようなタイミングで何頭かに声を掛けていただいて、それを選ぶ場合に選ばなかった方が勝つ、これはよくありますね(苦笑)。あとはやっぱり、ジョッキーが怪我をしてしまった時ですね。誰のせいでもないと頭では分かっていますが、乗っていた馬が故障してしまった時は「俺のせいかな…」って、辛くなりますね。
赤見 :怪我は騎手のつきものですけど、やっぱり大きいことですもんね。ジョッキーとエージェントって、距離が近い分難しい部分もあるのかなって思うんです。せっかく良い馬を集めたのに変な負け方をしてしまうと、「なにやってるんだよ!」って文句を言いたくなってしまいそうですが…?
森山 :でも、そこをフォローするのも僕らの仕事なんですよね。競馬ってそうそううまくは乗れません。前に馬に乗る難しさを少しでも分かりたくて、育成牧場で乗せてもらっていたんですけど、もう、落されて落とされて。多分スピードは時速20キロも出ていなかったと…。命をかけて乗っている騎手に、競馬に乗ったこともない馬にも乗れない僕が文句を言うのはやっぱりおかしいと思いますので。失敗したことは僕が言うまでもなく、本人が一番分かっているはずですしね。
赤見 :森山さんたちを見ていると「良い関係だな」って思います。だって、松岡騎手とか津村騎手はそうでもないですけど、石橋騎手はものすごく人見知りじゃないですか。あの心を開いたんですから!
森山 :いやいや(笑)。エージェントになる前から、会話はよくしていましたからね。ただ、松岡とは付き合いの長い夫婦というかカップルみたいで、お互いに言わなくても分かるところがあると言いますか。これは僕が勝手に思っているだけかもしれませんが(笑)、もし、本当にそうだったら嬉しいですけどね。
赤見 :ちなみに、エージェントをされていて一番嬉しかった勝利と言ったら?

コイウタと松岡騎手

表彰式での松岡騎手
森山 :松岡のコイウタ(07年ヴィクトリアM)ですね。あれが彼の初GI勝利で、あの時は本当、あんなに叫んだのは初めてっていうくらい叫びました。
赤見 :上がってきた時は二人で喜び合って?
森山 :それが、お互いに初めてだったので、握手をするのか抱き合うのか分からなくなっちゃって、変な感じになっちゃったんですけど(笑)。でも、あれは嬉しかったですね。
赤見 :そういう勝利がこれからたくさん増えるといいですね。
森山 :そうですね。向こうから「森山さん、もう辞めて欲しい」って言われることは、もしかしたらあるかもしれないですけど、僕から言うことはないかなと。僕、夢があるんですよ。GIに4人全員が乗って、ゴール前で「誰でもいい」って言いたい。
赤見 :おお~。
森山 :4人の中の誰とは言えない、というか決められない。できることなら全員に勝ってほしい。そんなシーンがあれば最高だなって思います。
赤見 :素敵~。最後にエージェント制の今後を少しお聞きしたいのですが、JRAとしては将来的に専業の方向に?
森山 :そうなんですが、現実的には今のままでは難しいんじゃないかなと思います。
赤見 :それは?
森山 :JRAはエージェントという制度を確立したにも関わらず、エージェントに対する規則やどういった立場に置くのかということがまだアヤフヤなので、戸惑うこともよくあるんです。例えば、外国人騎手の通訳をされる方は検量室に出入り可能なのですが、エージェントはNG。記者と兼業されている方ならNGは分かりますが、関係者の立場側にいる専業のエージェントがどうしてダメなのか。他にもマスコミには出回る資料が回ってこないなどの不都合が多くあります。それに、フリーでも兼業でも担当できる騎手の人数は同じですから、そうなると記者業を辞めてまで専業になるメリットはあまりないですからね。今のままでは専業でやろうという人はあまり出てこないと思います。
赤見 :確かに。あと、騎手のエージェントだけじゃなく、調教師のエージェントも出てきているそうですが?
森山 :そうですね。関西には実際にそういう方が何人かいますし、関東にもそういう手伝いをされている方がいます。これからもっと増えて来ると思いますよ。
赤見 :そうすると、だんだんと分業化というか。
森山 :そうですね、ゆくゆくはそうなっていくと思います。
◆森山大地
1979年12月13日生まれ、兵庫県出身。山口大学工学部を卒業後、ダービーニュースに入社。かねてより興味のあった競馬の世界に飛び込む。記者生活を経て、2011年3月に独立。現在はフリーのエージェントとして、松岡正海騎手、石橋脩騎手、津村明秀騎手、若手の嶋田純次騎手を担当。
◆次回予告
森山さんが担当する松岡騎手、津村騎手、石橋騎手、嶋田騎手のジョッキーコメントを特別公開します。公開日は6/26(火)12時、お楽しみに!