7月9日(月)、10日(火)の両日にわたり、苫小牧市にあるノーザンホースパークを会場に開催された「セレクトセール2012」(主催・日本競走馬協会)は、2日間で102億9630万円を売り上げ、2007年以来の100億円突破。圧倒的な存在感を内外に示した。
馬券売り上げ低迷と賞金減額、長引く不況などにより、競走馬需要に陰りが出てくるのではと懸念する向きもあったが、ここだけはまさしく“別世界”の活況を呈した。
初日は1歳市場。242頭(牡160頭、牝82頭)が上場し、202頭(牡129頭、牝73頭)が落札された。売却率は83.5%。社台グループの良血牝馬が数多く上場されたこともあり、売却率は牡80.6%に対して牝は89.0%。1頭あたりの価格こそ牡の方が高かったものの、牝馬の方がより売れる市場であった。
初日の売り上げ総額は54億5260万円(税抜き)。1頭あたりの平均価格は2699万3069円(牡3151万5504円、牝1900万1370円)となった。昨年初日の数字と比較すると、上場頭数で+9頭、落札頭数で+5頭。売却率こそ-1ポイントだったが、売り上げ総額は7億2660万円の増、平均価格もまた303万2732円も上昇した。
午前10時よりせりが始まり、修了したのは午後7時過ぎ。実に9時間に及ぶロングランとなったが、会場では終始活発な競り合いが展開していた。

アドマイヤキラメキの2011

報道陣に囲まれる島川氏
初日の最高価格馬は51番「アドマイヤキラメキの2011」(牡黒鹿毛、父ディープインパクト、母アドマイヤキラメキ、母父エンドスウィープ)の2憶5000万円。白菊賞を含め2勝を挙げているラシンティランテ(3歳牝)の半妹で。また母の兄弟にはトーセンジョーダン、トーセンホマレボシ、ダークメッセージなどがいる名血で、島川隆哉氏が落札した。生産はノーザンファーム。
この馬でダービーを狙いますか? と報道陣に問われた島川氏は「いいや、簡単に獲れませんよ」と答え「お金払えるかな」と周囲を笑わせていたが、この馬にかける並々ならぬ期待が滲み出ていた印象だ。
なお、初日の主役はもちろんディープインパクト産駒で、13頭が上場され完売であった。ディープ産駒だけでも11億1400万円を売り上げて、平均価格もまた8569万2308円と、他の追随を許さないダントツの数字を残した。春のG1戦線では桜花賞、オークス、日本ダービーを制し、ディープインパクトの評価は父サンデーサイレンスにかなり近づきつつある。
この日の苫小牧市は終日曇りながら涼しく、快適であった。
2日目は当歳市場。朝から好天に恵まれ、爽やかな青空が広がる絶好のせり日和となった。午前8時より全頭一斉に展示され、せり開始となる午前10時までの2時間が充てられる。

木立のなかで展示が行われる
いつも感じることだが、この会場の展示場所はすばらしいロケーションだ。200組を超える親子が一堂に会し、番号順に並んで2時間を過ごすのだ。たっぷりと確保された展示時間を使って、購買者は目当ての上場馬を丹念に見て歩くのである。刈り込まれた芝生に豊富な樹木が展示を演出する。こんな絵になる風景はそうそうないと毎年感心させられる。
10時ちょうどにせりが始まった。当歳は211頭(牡156頭、牝55頭)が上場され、158頭(牡110頭、牝48頭)が落札された。売却率は74.9%(牡70.5%、牝87.3%)。前年比3.8%の増加である。
またこの日の売り上げ総額は48億4370万円(税抜き)。平均価格は3065万6329円(牡3193万8182円、牝2771万8750円)。初日の54億5260万円と合わせ、2日間トータルでは102億9630万円もの大商いで、ここだけはまさしく不況知らずであった。
この日の注目馬は、まず日本ダービー馬ディープブリランテの全妹である445番「ラヴアンドバブルスの2012」で、価格はどんどん上昇して行き、1億4500万円でPaul Fudge氏が落札した。
Paul氏はオーストラリア人で、欧米に100頭以上の競走馬を走らせており、日本でもすでに馬主資格を有する。「どこで競馬に供することになるかは未定」としながらも、将来の繁殖牝馬としての価値を認めてこの馬を落札したという。

スカイディーバの2012と関係者
当歳市場でもディープインパクト産駒は好調で、15頭中14頭が落札、平均価格も7907万1429円と、極めて高評価であった。当歳市場の最高価格馬は327番「スカイディーバの2012」(牡鹿毛、父ディープインパクト、母スカイディーバ、母父Sky Mesa)の2憶5000万円(税抜き)。
母はアメリカのGI馬で、本馬が初仔となる。落札したのはサトノの冠名で知られる里見治氏。生産はノーザンファーム。
価格上位馬には社台グループ生産馬がずらりと並び、日高の生産馬は相対的に苦戦を強いられるのがこの市場だが、生産馬のレベルや現実の競走成績を考えるとこれもやむを得まい。
ただし、数少ないながらも、セレクトセールに複数の生産馬を上場し売却できた日高の中小牧場もあったことを付記しておく。全体のムードに後押しされるように、おそらく日高の市場に上場するよりも高価格で落札されたと思われる例も多く、どの市場に生産馬を出すかがポイントである。1000万円はここではかなり低価格馬の部類だが、日高の市場では高価格馬であり、皮肉なことに日高産馬の多くは「割安感」があったのも事実だ。
さて、日高では来週に「セレクションセール」が控えており、中小牧場の多くはこちらに大きな期待を寄せている。客層も異なり、上場馬のレベルも下がるものの、購買者にとってはその分だけ落札しやすい市場とも言える。来週はセレクションについて書く予定でいる。