スマートフォン版へ

キングジョージ有力馬紹介、ディープブリランテの勝算

  • 2012年07月18日(水) 12時00分
 先週に引き続き、7月21日(土曜日)にアスコット競馬場で行われる欧州12F路線における前半戦の総決算・G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝12F)の展望をお届けしたい。

 7月16日(月)英国時間の正午に設けられていた「5日前登録」で、ディープブリランテ(牡3、父ディープインパクト)を含めて12頭がエントリーを済ませている。

 各論に入る前に、まず触れたいのが現地の天候だ。英国は5月半ばからすでに2か月にわたって多雨に祟られており、先週土曜日にニューマーケットで行われたG1ジュライC(芝6F)も、Soft よりもHolding よりも悪い、英国における公式な馬場発表では最も重いHeavyという馬場で行われた。

 5日前登録の段階でアスコットの馬場は、周回コースがSoftで、ストレートコースがGood to Softと発表されている。競馬場の馬場管理担当者によれば、先週末のアスコットの降雨量は5ミリで、20ミリの雨にあったニューマーケットほどは馬場が悪化していないとのこと。もっとも、16日(月)にも3ミリの雨があったほか、19日(木)にも相当量の雨が予測されており、道悪での開催は不可避の状況のようだ。

 先週のこのコラムで、近年の傾向から「アスコットのコース適性をある程度重視すべし」とのファクターがあることを御紹介した。そういう観点から12頭を分析すると、最初に着目すべきは、前年に続くこのレース連覇を狙うナサニエル(牡4、父ガリレオ)になろう。

 もともと厩舎のダービー候補として高い評価を受けていた馬だが、初勝利を挙げるのに3戦を要し、かつ、ダービープレップの1つであるG3チェスターヴァース(12F66y)で2着に敗れたため、ダービー出走を断念。ロイヤルアスコットの「断念ダービー」G2キングエドワード7世S(芝12F)に廻ってここで重賞初制覇を果たし、返す刀で挑んだG1キングジョージで金星を射止めたのが、昨年の同馬だった。

 今季のナサニエルは春先の調整に一頓挫あったのに加え、慎重居士のJ・ゴスデン調教師がなかなか出走に踏み切らなかったこともあって、7月7日にサンダウンで行われたG1エクリプス(10F7y)でようやくのシーズナルデビュー。ほぼ9か月振りの実戦となったが、欧州10F路線の新星ファー(牡4、父ピヴォタル)の追撃を振り切って、自身2度目のG1制覇を果たした。

 キングジョージ連覇に向けてぎりぎりながら態勢が整ったというのが一般的な見方で、ブックメーカー各社もオッズ3.5倍から4倍の2番人気というのが「5日前登録」段階での評価だ。

 J・ゴスデン師に誤算があったとすれば、エクリプスSのゴール前が、ナサニエルとファーの2頭による我慢比べのような展開となり、相当にタフな消耗戦となった点だろう。しかも、カレンダーの都合で今年はエクリプスSとキングジョージの間が、日本式に言うところの中1週しかなく、休み明けで激走した馬を立て直す時間的余裕はなかったはずだ。

 実力やコース適性という点で秀でていることを認めつつ、ローテーション面でのマイナス要素から、今回のナサニエルは一枚割引いて考えたいと思う。

 今シーズンの開幕から7月第1週まで、欧州とドバイで行われた芝10.5F〜12Fの古馬のG1&G2戦(牝馬限定戦は除く)は13競走あったが、このうち3競走の勝ち馬がキングジョージに駒を進めてくる。

 日程順に御紹介すると、5月20日にドイツで行われたG2バーデン企業大賞(芝2200m)を制したデインドリーム(牝4、父ロミタス)、6月2日にエプソムで行われたG1コロネーションC(芝12F10y)の勝ち馬セントニコラスアビー(牡5、父モンジュー)、6月23日のロイヤルアスコット最終日に行われたG2ハードウィックS(芝12F)を制したシームーン(牡4、父ビーロホロウ)の3頭だ。

 馬とレースの格を重視するならば、キングジョージ出走馬の中でただ1頭、今季ここまで欧州で行われたこの路線のG1勝ち馬であるセントニコラスアビー(牡5、父モンジュー)が最上位にこよう。

 2歳時、G1レイシングポストトロフィー(芝8F)を含めて3戦3勝の成績を残し、スーパースター候補と持て囃されたのがセントニコラスアビーだ。ところが、3歳初戦のG1、2000ギニー(芝8F)で6着に敗れると、3歳シ−ズンの残りを全休。4歳春に戦列戻り、エプソムのG1コロネーションCを制して鮮やかな復活。

 その後は3連敗を喫し、再びトンネルに入り込んだかに見えたが、4歳最終戦となったG1BCターフを快勝。5歳を迎えた今季は、初戦のG1シーマクラシック(芝2400m)2着、欧州初戦となったG3ムーアスブリッジS(芝10F)2着と惜敗を続けた後、G1コロネーションCで前年に続く連覇を達成するとともに、自身4度目のG1制覇を飾った。

 2歳時の尋常ならざる期待に応えるところまでは到達していないが、芝12F路線でトップクラスの能力を持つ馬であることは充分に示しているのがセントニコラスアビーだ。ブックメーカーが催すキングジョージの前売りでも、各社3倍〜3.5倍のオッズを掲げ、総じて1番人気に推しているのがこの馬である。

 ただし、不安材料も2点ある。1つは、唯一アスコットを経験した昨年のキングジョージで、ナサニエルに4馬身遅れをとる3着に敗退していること。

 そしてもう1つは、4歳以降の同馬の成績を馬場状態別に分類すると、Goodより乾いた状態だと[1着4回、2着1回、着外1回]なのに対し、Good to Softより湿った馬場だと[1着なし、2着1回、3着3回]と、明らかに馬場が乾いている方が湿った時よりもパフォーマンスが上である点だ。

 父モンジュー譲りの切れ味が道悪で鈍るのだとしたら、この馬もまた、今回は一枚割り引いて考えたい1頭である。

 さて、ここで再びコース適性の重要性を持ち出すならば、ナサニエルに次ぐ存在と言えるのが、アスコットを舞台としたG2ハードウィックSを3.1/4馬身差で快勝したシームーンだろう。

 03年のG1セントレジャー(芝14F132y)勝ち馬ブライアンボルーの弟で、早くから厩舎のダービー候補と言われていたのがシームーンだ。ところが、3歳シーズンの始動が6月までズレ込み、春のクラシック出走は断念。

 G1セントレジャーへの前哨戦G2グレートヴォルティジュールS(芝12F)を8馬身差で制して重賞初制覇を果たしたが、1番人気に推されたG1セントレジャーでは、マスクドマーヴェルとブラウンパンサーの後塵を拝して3着に敗退。その後アメリカに遠征し、G1BCターフ(芝12F)でセントニコラスアビーの2着となって、3歳シーズンを終えている。

 4歳を迎えた今季、初戦となったグッドウッドのLRタップスターS(芝12F)を白星で通過すると、G1並みの好メンバーが揃ったロイヤルアスコットのG2ハードウィックS(芝12F)を3.1/2馬身差で快勝。4歳を迎えてひと皮剥けた姿を披露し、ようやく従前からの高い期待に応えられるだけの水準に達しつつある印象を受けた。

 春の3歳クラシックでは珍しく沈黙していたM・スタウト厩舎だが、ニューマーケットのジュライ開催でも管理馬フィオレンテ(牡4、父モンスン)がG2プリンセスオヴウェールズS(芝12F)を制するなど、ようやく本調子を取り戻しつつあるのも追い風だ。かつ、シームーンが制したハードウィックSは、04年のドワイエン、10年のハービンジャーが、キングジョージ制覇へのステッピングストーンとしたレースという、心強いデータもある。

 総合的に判断して、今年のキングジョージでディープブリランテの前に立ちはだかる最大の敵は、シームーンと判断したい。

 一方、格という面を考慮する時、忘れてはならないのが、昨年のG1凱旋門賞(芝2400m)を5馬身差で圧勝したデインドリーム(牝4、父ロミタス)である。

 凱旋門賞だけでなく、直前のG1ベルリン大賞(芝2400m)、G1バーデン大賞(芝2400m)を、いずれも圧倒的着差で連勝を重ねた様は、まさに圧巻のひと言で、欧州の総本山とも言うべきこの路線を舞台に、3歳牝馬が古馬の牡馬を相手にして見せたパフォーマンスとしては、近年最高との評価を得るに至った。

 4歳を迎え、今季初戦となったのがG2バーデン企業大賞で、ここでも牡馬の精鋭を撃破。健在振りを示したのだが、思わぬ躓きが待っていたのが、前走のG1サンクルー大賞(芝2400m)だった。当日のサンクルーの馬場も Bon Souple (=Good to Soft)と湿った状態になり、道悪を厭わぬと言われるデインドリームはオッズ1.8倍という圧倒的1番人気に推されたのだが、結果はまさかの、4頭立ての4着。

 逃げ馬不在でデインドリームが不得手としている超スローペースになったことが主たる敗因で、最下位に敗れたとはいえ勝ち馬との着差は3.1/4馬身しかなく、さほど悲観する敗戦ではなかったが、直前走の内容としてはいささか不安が残ることも確かである。

 サンクルー大賞の直後は、キングジョージ回避と伝えられていたが、16日(月)の段階で陣営から「馬は絶好調で、昨秋の凱旋門賞を制した頃に戻った。キングジョージに参戦する」との出走表明があった。

 調子に問題がないとすれば、当然のごとく争覇圏に入って来る馬だが、不安材料は初コースとなるアスコットの馬場への適性だ。古馬となって背負う斤量が、小柄な同馬には少なからぬ負担となっている節もあるだけに、起伏に富んだアスコットへの対応に一抹の不安が残る。ということでこの馬もまた、今回は割り引いて考えたい。

 一方、展開が嵌れば侮れないのは、前走アスコットのG2ハードウィックSで、道中2度にわたって進路が狭くなる不利がありながら、ゴール前で印象的な脚を繰り出してシームーンの2着を確保したデュナデン(牡6、父ニコバー)だ。

さて、「5日前登録」を済ませた12頭の中で、唯一の3歳馬となるのが、日本から参戦のディープブリランテである。

 先週のコラムでも指摘したが、近年のキングジョージが古馬優勢なのは、そもそも3歳馬の出走が少ないからで、昨年のこのレースを制したナサニエルも、出走5頭中ただ1頭の3歳馬であった。すなわち、実力のある3歳馬であれば、古馬との間にある約5.4キロの斤量差を活かして充分にチャンスがあるのが、キングジョージである。

 昨年のグランプリボスの遠征で蓄積したノウハウを十二分に活かし、チーム矢作は綿密な調整メニューを組んでおり、現地入り後の状態はすこぶる順調と伝えられている。そうなると、再三再四の指摘となるが、ポイントとなるのはアスコットの馬場への適性と、道悪への対応だ。

 不良の発表だった昨秋のG3東京スポーツ杯2歳Sを3馬身差で快勝した実績を考えると、よほど酷い状態にまで悪化しなければ、湿った馬場はこなしてくれそうだ。

 問題はやはり先週のコラムでも指摘した、かつて今まで経験したことのない「スタート直後の下り」で、ここでいかに巧く折り合うかが、勝負の分かれ目となりそうである。

 前売り市場での評価は、各社オッズ17倍〜20倍の6〜7番人気と、さほど高くはないが、今や世界が注目するディープインパクトの血が、欧州の競馬関係者とファンをあっと言わせる場面を期待したいと思う。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング