先週水曜に栗東トレセン厩舎地区を歩いている時、坂口大厩舎時代から世話になっている坂口助手(現在は福島厩舎所属)が2歳馬にまたがってやってきたので「おはようございます」とあいさつした。その直後、乗っていた馬が突然大暴れ。立ち上がり、他の厩舎の敷地に入り制御不能に陥って坂口助手はテンヤワンヤ。「ごめん、申し訳ない」と静かにその場を去った。
この仕事をしていて心苦しいのはこの瞬間。何でもないことを馬は「異常事態」と受け取ってしまうことがある。木曜の投票所でこのことを謝ろうと待っていたのだが、先に声をかけたのは彼の方。
「あの時はすみません」
こちらが頭を下げようとしたところに思わぬ謝罪。大暴れの原因はこうだった。
「あいさつをしたところはちょうど坂路に向かう角だったじゃないですか。馬もしんどい時期だったし“ここを曲がれば坂路に行く。またキツイ思いをしなきゃならない”と覚えてしまったんです。それで嫌がって大暴れしちゃったんです。今朝は坂路に向かう道のりを変えたので大丈夫でした。心配をおかけして申し訳ない」
サラブレッドは人間にとって近い存在でいとおしく感じる生き物。しかし犬や猫のような愛玩動物ではない。走ることで人間のために賞金を稼ぎ、自らの命をもつなぐ。人間もそれに応えようと危険を顧みずに手を差し伸べる。そうした人間とサラブレッドの妥協なきやりとりのワンシーンだったと言えそうだ。
「馬がしんどいからといって、それで楽をさせていては馬のためにならない。しんどい時でもそれを何とかしてやって、いい方向に導いてやるのがウチらの仕事。それで飯を食ってるんだから」とは松田博調教師。これは人間とサラブレッドだけに収まる話ではないだろう。昨今のいじめ事件に対する大人たちの対応を見ていると、いかにこの世界がピュアなものかと思い知る。
11日のジャパンDDをハタノヴァンクールで制した昆厩舎。これまで夏は函館、札幌が主戦場で2歳馬も馬産地でのデビューが多かった。しかし、今年はダイメイハルオ(牡=父チチカステナンゴ、母ジョンコ)という好素材が栗東にスタンバイ。今週の土曜(21日)中京芝1400メートルでデビューする。1週前追い切りにまたがった西谷は「まだ苦しがって上に逃げようとするところはあるけど、このひと追いで良くなってくる」。西谷は名門・瀬戸口厩舎の活躍を支えてきた“調教の名人”。「まだうまく体を使えないところがあった」(上籠助手)というダイメイだけに、この追い切りで名人から得たものは大きかったはずだ。新たな「日高の救世主」誕生となるか、注目したい。
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