月曜日にトルコから帰国し、火曜日は一日中仕事場にこもって原稿を書いていた。水曜日はゲラのやりとりのあと、夜、地元で打合せがあり、木曜日は取材と打合せ。そして本稿を書いている27日の金曜日、相馬野馬追取材のためクルマで福島の浜通りに向かう。
相馬野馬追は28日(土)、29日(日)、30日(月)の3日間なのだが、前夜祭のような感じで27日に相馬中村神社で安全祈願祭と総大将出陣祝いの宴が行われる。都内から高速で福島西インターまで3時間、そこから相馬まで山道を1時間半ほど走ることになるので最初から見ることはできそうにないが、雰囲気だけでも味わいたいと思う。
連載小説「絆」に登場する田島夏美のモデルでもある相馬中村神社の「美しすぎる禰宜」川嶋麻紗美さんに電話したら、張りのある声で「お待ちしています」と言ってくれた。周囲からいろいろな音が聞こえていたから、おそらく準備で忙しかったのだろう。
水曜日の打合せで、競馬雑誌の編集者に「今週の『絆』の『カリスマ調教師』のモデルは誰なんですか」と訊かれたとき、私は「○○調教師と××調教師を足して2で割った感じです」と、よく知っているふたりを挙げた。
馬主にもモデルとなった人がいる。競馬に詳しい人には、それが誰なのか、いろいろなオーナーの顔を思い浮かべて楽しんでもらえると、作者としては嬉しい。
29日の夜は、津波で長男の匠馬君を亡くした蒔田保夫さんと飲む約束をしている。ずっと前から「今度やりましょう」と言われていたのだが、ついつい「ぼくは下戸なんです」と言う機会を逸していた。が、先日、「ぼくは下戸ですが、伊集院静さんに連れられて銀座のクラブをハシゴし、高いウーロン茶をガブ飲みしたりしています」といったメールを送り、カミングアウトした。
以前、本稿に記したように、「絆」の杉下将馬の名前は、匠馬君と同じ読みになるようにと決めた。
匠馬君が亡くなってから2度目の野馬追を、蒔田さんはどんな思いで迎えるのだろうか。
まだ時差ボケが解消せず、眠りたい時間に寝ることができない。日本とトルコの時差はサマータイムで6時間。何度も行っているドバイの5時間は平気なのに、この1時間のプラスアルファが大きいのか。
今週会った何人かと、ほとんど同じようなやり取りをした。
「ずいぶん日焼けしていますね」
と言われた私は、
「トルコ焼けです」
と答える。
「トルコ?」
「イスタンブールでアジア競馬会議があったんです」
「トルコでも競馬やってるんですね」
といったものだ。
トルコは今、経済面で急成長しており、日本の企業やビジネスマンも大挙押しかけている。競馬も好調で、国内に8つある競馬場が来年には10に増えるという。
控除率50%という冗談みたいなテラ銭をとりながらそれだけ伸びているんだから、すごい勢いである。
発展途上国(トルコをこう表現していいと思うのだが)によく見られるように、イスタンブールの街中の渋滞は、徒歩15分のところに1時間かかったりと凄まじい。ほとんどクルマが動かないものだから、クルマの間を歩き回ってミネラルウォーターを売る子供がたくさんいる。なかには、洗剤とブラシを持ってクルマの窓を洗う新商売をしているオッサンもいて、ドライバーに断られて逆ギレしていたりと、いろいろな意味で活気が感じられた。
先に「競馬場が増える」とサラリと書いたが、日本で最後に競馬場が新設されたのはいつなのだろう。そう考えると、トルコの競馬ファンが羨ましくなってくる(50%の控除率は嫌だが)。
さっき天気予報をチェックしたら、相馬野馬追開催中の天気はわりとよさそうだ。縮小開催だった去年と違い、今年は例年どおりの規模で開催されるので、甲冑競馬や神旗争奪戦を見ることができる。
去年は祭りを見に行ったというより、伝統をつなぐべく踏ん張る人々の思いに触れてきた、という感じだった。今年は祭りを見に行くつもりでいいのかもしれない。
さあ、トルコ焼けに野馬追焼けを上塗りしてこよう。