開業4年目の今年、例年以上に勝ち星を量産しているS.R.S(Sugai.Racing.Stable)こと須貝尚介厩舎。出走回数は多くなく、それでいて高い勝率を叩き出す。特に複勝圏内率は4割に届く勢い。関西圏に偏らず全国の競馬場全てを戦いの舞台に、まさに「一戦必勝」態勢。調教師・須貝尚介の手腕に迫ります。(8/6公開Part1の続き)
赤見 :今年2月12日の共同通信杯をゴールドシップで勝たれて、重賞初勝利になりましたが、そこからポンポンと半期で重賞4勝。これには厩舎の士気もさらに上がったんじゃないですか?
須貝 :はい。でも、この成績に甘えないでがんばろうというのはありますよ。うちは朝みんな集まって、帰りも最後に全員が集まってミーティングをしてから解散するんですけど、そういう時にちょろっと言葉添えをすることは欠かせないですよね。

共同通信杯を制したゴールドシップ
赤見 :そういうことって、モチベーションが上がりますよね。去年は重賞で2着が続いた時もありましたけども。
須貝 :去年は、そうですね。ただ、2着でも力で負けたレースはほとんどなくて、「次につながるな」と思えるレースが多かったんです。だけど、馬はいい状態をキープするのがなかなか難しい。キープしながら次につなげなきゃいけないので、その辺はスタッフに重々言っています。まぐれと思われないために、「今回負けても、次は勝とう」というふうに持っていかなきゃいけないですからね。
赤見 :しっかりと勝ちにつなげていくことが大事なんですね。先生、今日(取材時)も開催全場(札幌、新潟、中京)に1頭ずつ管理馬を出走させていますが、ローテーションとしては幅広く選択肢をという感じなんですか?
須貝 :今日新潟で走ったクリーンエコロジーは、脚元に爆弾を抱えているんですよ。それで1年ぐらい休んでいるんですけど、そういうタイプはいい状態をキープするのが非常に難しい。坂路でしか乗れないタイプですし、本当は北海道に持って行きたいけどそれもできないので。だから、個々の馬の体質とか健康状態とか性格とか、全ての面から見て合わせていってあげなきゃいけないですね。
赤見 :その馬その馬に一番合っている道を選ぶという。そういうところがやっぱり、先生の勝率や連対率の高さにつながっているんでしょうか? 数字を見るとすごいですよね。勝率、連対率、特に複勝圏内率は4割近いという。やっぱりそこには、先生ならではの出走の狙い方が…?

そこは話せないな~(笑)
須貝 :いやいやいや。その辺はあんまり話せないな~(苦笑)。
赤見 :早目にレースを決められるとか?
須貝 :ん~、タイミング……いや、そういうのはしゃべったらダメなところで。今、うまいこと引き出そうとしたな~(笑)。
赤見 :企業秘密ですか~。そこはぜひお聞きしたかったんですもん(笑)。
須貝 :あはは(笑)。まあ、今日だって札幌が2着で新潟が3着に来ているけど、本当は1つ勝ちたかったんですよ。まあまあ、馬は本当に一生懸命走ってくれていますからね。
赤見 :先ほどレースが終わって、すぐにスタッフさんからお電話がありましたが、そうやってすぐ馬の報告が入るんですね。意思の疎通がすごく早いなと思いました。
須貝 :そうそうそう。うちはスタッフの動きがすごく早いし、協力性もすごく高いんです。それも厩舎訓の中に入れているんですけどね。僕は、思いついたことをすぐにメモに書いて、スタッフルームにペタペタ貼っているんですよ。そうすると、僕がいない時でも日々僕の字を見るわけでしょう。見るということは、どこかで「ああ、これじゃダメだ」ということに気づく自分を作ってくれますからね。それがうまく浸透してくれているんじゃないかなというのがあります。
赤見 :気持ちの持っていき方というか。
須貝 :そうそう。だって、世間の景気があまり良くない時に、競馬サークルのみんなはある程度の生活水準をキープできている。それに関しては、本当に感謝しなきゃいけないと思います。原点に馬がいるから、こういう仕事ができるっていうことですからね。
赤見 :先生の原点はやっぱり「馬への感謝」なんですね。ちなみに、先生の中で一番好きな競馬場ってありますか?
須貝 :函館(笑)。
赤見 :今年もリーディング獲られたから(笑)。
須貝 :2年連続で獲れたけども、狙って獲れるものではないですからね。でも、成績がいいから好きなんじゃなくて(笑)、函館って売り上げが一番少ない競馬場なんですけども、のんびりした町の中にぽつんとあるでしょう。アイルランドの競馬場とか、ヨーロッパの田舎町にぽつんとあるような雰囲気とちょっと似ていて、馬も落ち着くんですよね。
赤見 :そうなんですね。また、開催するときには、町をあげて競馬を楽しみにしてるっていう空気がありますよね。
須貝 :そう。だから、どういうふうにしたら函館の売り上げが上げるか、そういうことも競馬会には考えてもらいたいですね。せっかくあんなにいい競馬場があるんですから。
赤見 :そうですよね。こういうお立場になると、ご自身の厩舎のことだけじゃなくて。
須貝 :本当、そうなんですよ。競馬がなくなったら、僕らの仕事はないですから。だから、スターホースさえ作ればとか、とにかく成績をあげればとかじゃなくて、競馬が一般紙でもっともっと取り扱ってもらえるような立場のスポーツになればいいんじゃないかなと、日ごろから思っているんですけど。

勝利インタビューが印象的でした
赤見 :そういう面では、ゴールドシップの活躍はそこにつながるようなものですよね。共同通信杯の勝利インタビューで先生が、生産地の日高のことをおっしゃっていたのがすごく印象深くて。
須貝 :ああ。日高の小さな牧場から生まれた馬ですからね。日高の生産者は今も苦しいけども、こういう馬が走ってくれたら、やっぱり励みにもなると思いますから。
赤見 :本当にたくさんの人の励みになると思います。また、血統的にもオーナーが長いこと大事にされてきたんですよね。本当に喜ばれたでしょうね。
須貝 :よかったですよね。よかったですよねって、他人事ですよね(笑)。あそこまで行ったらもう、自分のところの馬というわけにもね。日高の馬で、ファンもついてくれていて、それをたまたま預らせてもらって競馬をさせてもらっているのがうちなので、その責務はかなりの重圧がありますよ。ただ、その重圧って、ありがたい重圧でもありますしね。
赤見 :また芦毛ちゃんって、見た目がコロンとして目もまん丸でかわいいですよね。だから余計にファンになる方も多いと思います。
須貝 :ありがとうございます。僕も芦毛好きなんですよ。芦毛って、競走馬を終えたときに、誘導馬になったり乗馬になったり、神社の神馬になったりするでしょう。
赤見 :やっぱり先生は、引退した先のことまで…。
須貝 :そうそう。まあ、トレセンから出た馬のことは考えるな、ということも言われるんですけどね。たしかにそうなのかもしれませんけど、ただ僕としては、そういうことも踏まえて、芦毛って本当に好きなんです。(Part3へ続く)
◆次回予告
須貝尚介厩舎に初重賞タイトルをもたらしたゴールドシップ。皐月賞では、内田博幸騎手の絶妙なコース取りで見事に勝利。クラシックの栄冠も手にしました。日高の小さな牧場で生まれた芦毛のスターホース、実は幼少期にハードな経験をしていたんです。
◆須貝尚介
1966年6月3日、滋賀県出身。父は元JRA調教師の須貝彦三。競馬学校第1期生として85年に騎手デビュー。90年ハクタイセイできさらぎ賞を制し、重賞初勝利。08年、調教師免許取得、騎手を引退。通算成績は4163戦302勝、うち重賞4勝。09年栗東で開業。12年、ゴールドシップで共同通信杯を制し、調教師として重賞初勝利を挙げる。同年、同馬で皐月賞も制し、開業4年目でクラシック制覇を果たした。通算成績は901戦93勝、うち重賞4勝(8月13日現在)。