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北九州記念

  • 2012年08月20日(月) 18時00分
 レースレコードの1分06秒9で鮮やかな差し切り勝ちをきめたスギノエンデバー(父サクラバクシンオー)以下、11着のリュンヌまでが0秒5差の1分07秒4以内という大接戦。メンバーがそろえば決まって接戦にもつれこむ高速の小倉コースらしいスピードレースが展開された。

 記録された時計が速ければいいというものではないが、サマースプリントシリーズのポイント争いで重要な位置を占めると同時に、このレースはGIスプリンターズSを展望する一戦でもある。また、ハンデ戦とあって新星を含むさまざまなタイプが出走していた。

 ちょうど、香港馬などのスプリンターズSへの予備登録も完了しているこのスプリンター路線。しばらく日本馬の低迷が続いているだけに、少しでもレベルの高いレースが展開されることが期待されている。短距離戦では能力の大きな目安となる速い時計が飛び出したのは歓迎していいだろう。

 日本レコードの1分06秒5(アグネスワールド)が記録された小倉コースは、前半から速いラップが刻まれるコース形態をそなえている。今年の前半3ハロンは「32秒2」。2007年、2010年に「32秒1」の猛ダッシュが記録されているが、前半の3ハロンがほぼ限界とも思える32秒1〜2(必然的に10秒台のハロンが2回続く)にまで達してしまうと、レースの後半3ハロンは35秒台に落ち込むのがパターン。07年も、10年も当然のようにそうだった。

 しかし、内寄りの芝こそ4週目とあって傷んではいたが、今年は全体に芝コンディションが良好に保たれていたこともあって、後半3ハロンも34秒7におさまった。なおかつ、勝ったスギノエンデバー自身の前後半は「33秒1-33秒8」となる。1200mの前後半を、ともに33秒台でまとめて、さらに1分06秒台で乗り切るのは至難。日本レコード保持者で、世界でも通用したアグネスワールドは前半飛ばして32秒3だから、後半は34秒台の計算になる。

 勝ち時計の記録として残るのは、スギノエンデバーの前には、旧中京の記録が過去帳に入ったいま、1997年の京都でエイシンバーリンの記録した1分06秒9(33秒5-33秒4)ぐらいではないかと思える。エイシンバーリンはビッグレースを制して名が残る馬ではないが、同じような時期にアグネスワールドなどが活躍したから、当時の日本の短距離界のレベルは低くなかった。

 この日、通算300勝を達成し、気分良くメインのスギノエンデバー(8番人気)に騎乗した北村友一騎手の、変に慌てずの好騎乗も大きいが、4歳スギノエンデバーの北九州記念の1分06秒9には時計通りの価値を認めたい。ここまでの全4勝は小倉だが、ブライアンズタイム牝馬にサクラバクシンオーの組み合わせ。まだ4歳だけに、もうひとまわりのスケールアップが期待できるだろう。

 伏兵として2〜4着に突っ込んできたのは51〜52kgの軽ハンデ馬ばかり。みんなうまく末を残し、先行型壊滅のハイペースに乗じた印象が濃いからあまり高く評価するわけにはいかないが、中では3歳エピセアローム(父ダイワメジャー)のひとまわり成長した好馬体が光った。小倉2歳Sを制した当時は、たまたまのことで(使い分けの意味があった)、1200m向きの馬ではないと強調した陣営だが、1200mベストかはともかく、これでスプリンターに近いことははっきりした。軽量だったとはいえ、このキャリアで大外を回って1分07秒1を記録したスピード能力への自信は大きい。

 内寄りの枠順を引いた馬がみんな苦戦した中、56.5kgで先行して粘ったヘニーハウンド(父Henny Hughes)の秘める可能性も高い。これまで自分から先行したことはなく、最高前半3ハロンが33秒6だったが、今回は内枠だから気合を入れて先行ダッシュを利かせ、前半32秒6。それで1分07秒2で踏ん張ったから、これまでとはレース内容一変である。まして今回、絶好調ともみえなかった。

 4頭も出走しそれぞれ支持の高かった「エーシン勢」は、人気の中心だったヒットマン以下、6、7、8、15着。行く一手型のダックマン、ヴァーゴウはこの流れでは苦しく、また、追っての味を生かしたいヒットマン、リジルにとっては、急に芝の傷みが目立ち始めてきた内枠を引いたマイナスが痛かった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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