速力に富む面々にとっても中山1200mの芝コースは難所だ。ましてGIとなれば逃走による勝利は厳しい。スプリンターズSの過去10年を回顧してみればわかりやすい。
逃げ切り勝ちを収めたのは5頭。半数もいてどこが至難の業かと突っ込まれそうだが中身に目を投じてほしい。
日本馬の勝ち馬3頭のうち良馬場で制したのは09年のローレルゲレイロ1頭のみ。04年のカルストンライトオ、07年のアストンマーチャンはいずれも不良馬場での勝利。晴雨兼用型という共通点があった。残る2頭は香港からの遠征馬である。
カルストンは1200mより1000mの方がさらに向くというスピートスター。アストンは小倉2歳Sを勝ってクラシック路線を走破。前々走が桜花賞で北九州記念(6着)を使われて参戦していた。つまりこの2頭はスプリント色が濃い。前記したように道悪にも対応が利く走法のため先頭に立って押し切る競馬が可能だった。道悪になればラップタイムは落ちる。後続勢は泥をかぶることで逃走意識も萎えやすい。適性と展開が噛み合ったのだ。
ローレルは中距離から距離を縮めて短距離戦線へ。高松宮記念を勝ち安田記念を挟んで休養。休み明け2戦目で手にした勝利である。気性はスプリンターのそれだが持久戦にも耐えることが可能な心肺機能があった。この馬のような心身のバランスを保持していなければ良馬場での当コースのG?を逃げて押し切るのは困難だと思うのだ。
層の厚い香港の短距離界。逃走劇を2度も演じているようにレベルは高いが昨年の内容を見ても日本の高速馬場への対応は限界に近いのではないか。
昨年の勝ち時計は1分7秒4。一昨年と並び過去10年で2番目に速いが当時の馬場状態ならさらに速い決着になってもおかしくはなかった。ビービーガルダンの放馬の影響で出走馬が集中力を欠いたような走り。前半3F33秒0のペースでほとんどの馬が折り合っていた。
それだけ各馬の気が抜けていた証拠だろう。直線でごちゃついたのは決して速い流れではなかったということだ。
差し・先行型。それも日本馬に絞る。まずこの点を強調したい。
当コースの厳しさの最大要因はコース形態である。発馬して500mもの下り坂が続いたあとに300mの平たん部分を走る。再び下り坂が続き直線の急坂が待つ。スタート地点が2角。外回りコースのため3角の角度はかなり緩やかになっている。加速する一方で直線に入ったあとに急激な坂を越えねばならない。クラスが上がるにつれてスピードで押し切るスタイルが難しくなるのも当然だろう。
サクラバクシンオーの産駒は豊富なスピードで勝負するケースが多い。先行・差し型にかかわらずその傾向が強いためタフな中山1200mでのGIでは結果が出にくいのではないか。
過去10年を振り返っても連対した産駒はゼロ。一昨年に2着に入ったダッシャーゴーゴーは4着に降着となっている。ここ5年でクロフネ産駒が2勝。あとはアドマイヤコジーンとキングヘイロー産駒。そして香港馬だ。勝ち馬の父の顔ぶれからもパワーが必要なコース設定だということが理解できる。
マジンプロスパーを推す。先陣を切った前走で厳しい展開を経験。休養明けで身体に緩みが見て取れたことを考慮すれば今回につながる中身だった。1番枠を獲得したことで内々で脚をためていく競馬が可能。スピードどパワーのバランスが取れており当コースにいかにも合いそうな雰囲気を持つ。07年の勝ち馬アストンマーチャンと同じアドマイヤコジーンを父に持つ。血統背景もいい。
一発の魅力ならクロフネ産駒の差し馬・スプリングサンダー。3番枠を引き当てたドリームバレンチノにも警戒が必要だろう。