いまから約50年くらい前、天才馬産家として名を残すF.テシオは、「芦毛は病気である。それも、だんだん白くなる進行性の病気だ」と唱えた。また、一部の人々は「白髪だ」と考えたりもした。
そのくらい、歴史の中ではつい最近まで不思議な毛色だったのである。いろいろな理由で好まない国もあった。フランスのように、いまでも山のように芦毛がいて、芦毛×芦毛から誕生した「結合型」の遺伝子を持ち、芦毛産駒しか送らない馬さえ珍しくない国もある。日本に輸入された芦毛の種牡馬は、その大半がフランス産やフランス経由である。
皐月賞1頭、日本ダービー3頭、桜花賞1頭、オークス1頭というのが、クラシックの芦毛の勝ち馬数。ところが、菊花賞だけは別で、77年プレストウコウ、90年メジロマックイーン、93年ビワハヤヒデ、98年セイウンスカイ、02年ヒシミラクル。5頭も勝っている。また85年スダホーク、90年にはホワイトストーン(勝ち馬はメジロマックイーン)は2着に快走したりしている。
芦毛の毛色は、古くはザテトラーク、グレイソブリンなど快速系の毛色の時代があった。だから、グレイソブリン直父系のプレストウコウが菊花賞に勝ったとき、頭をかかえていた先人がいたというが、現代のダンチヒ系と同じで、発展する父系はさまざまな方向に枝をのばし、距離適性などもどんどん変化するのである。
芦毛馬が菊花賞に強いのは、京都の直線が平坦であることも少し関係するかもしれない。また、芦毛は毛色からくる疾病で早世することが多かったり、悲運のイメージと重なったりするが、毛色と競走能力に関係はない。名馬の「芦毛」を受け継いだ時点で「強い運」を持っているとも言える。
メジロマックイーン父子天皇賞、オグリキャップの出現やタマモクロス、さらにはヒシミラクル。芦毛の名馬は、とりわけ成長力に富んでいる一面もある。また、なぜか秋に強くなるイメージもある。
芦毛のファンは芦毛の不思議を考える。関西に遠征した障害馬で、メジロマックイーンの後継になれるかもしれないと思われていたホクトスルタンが死亡したばかり。マックイーン党はゴールドシップに一段と肩入れしそうである。
ゴールドシップの芦毛はメジロマックイーン、メジロティターン、メジロアサマ、その母スイートとさかのぼって、芦毛のザテトラークにたどり着く。無敗で凱旋門賞を圧勝したザルカヴァが芦毛のプティエトワールから継いだ1本の糸から生まれた逸話だと、ゴールドシップの芦毛を重ね合わせたりするのかもしれない。
菊花賞は「逆転の一冠」として育ってきた。メジロマックイーンからしてそうだった。したがって、春は無名で成長の遅れていた馬や、距離が延びて頭角を現してきた上がり馬に注目しなければならない。菊花賞は最後の一冠ではなく、やがてオルフェーヴルやディープインパクトになるための、古馬路線に向けた出発点でもある。
しかし人気のゴールドシップは、それでは既成勢力の代表なのかと言うと、そうではない気がする。菊花賞が初GI挑戦だった遅咲きのステイゴールド、メジロマックイーン。
神戸新聞杯では、春には見られなかったロングスパートを成功させた。体つきもシャープに変わって幼い印象はなくなった。ゴールドシップこそ、秋になって成長力を発揮しはじめたのである。ダービーの少々の失敗もあるから、1枠の今回は置かれないだろう。
ゴールドシップの相手探しとしたい。7頭も出走してきたディープインパクト産駒の中では、まずロードアクレイム(母の父トニービンは、芦毛こそ消えたが前出のグレイソブリン直父系)。こういう良血馬は、きっかけをつかむと一気に上昇する。
典型的な上がり馬の中では、早め早めに動くタガノビッグバン。ついで、ステイゴールド産駒のフェデラルホール。人気馬から入るので、相手本線はこの3頭としたい。