◆マイルグランプリ展望(10月24日 大井 サラ3歳以上 別定 南関東SII 1600m)
「マイルグランプリ」は平成7年創設。グレードこそ「南関東SII」だが、歴史的な格といえばかなり高い。過去優勝馬には、コンサートボーイ、アブクマポーロ、さらにナイキアディライト、アジュディミツオー…、錚々たるGIウィナーの名前が並ぶ。
ただ近年は正直低調というしかない。南関東の地盤沈下(とりわけ生え抜き馬)に伴うレベルダウン、そこにオープン馬の棲み分け(距離適性)が拍車をかけた。フリオーソ級の絶対王者、その出走があればもちろんいいが、それが叶わないケースでは、いかにも南関東GIIらしいGII、そんな様相になってしまう。
もっとも今年のメンバー。出走16頭、古豪、中堅、新鋭、すべて出そろった点に面白さはもちろんある。1番人気がどれになるか、それ自体が読めない混戦。かつて「帝王賞TR」として機能していた(当時・4月施行)とは、認識を変えるべき、そういうことなのかもしれない。ノスタルジー、願望ではなく、現実に即した予想と馬券。記者的には今回、ひとまずそれを重視した(つもり)で、後述の予想をつけた。
(1)…近年波乱。1番人気〔3-1-3-3〕、2番人気〔1-2-2-5〕、3番人気〔3-0-0-7〕。数字上は並みの重賞だが、一昨年、昨年と、馬単それぞれ7万円台、3万円台の大波乱だった。今年も信頼度の高い“傑出馬”は見当たらない。
(2)…大井VS船橋。大井=5勝、2着5、船橋=4勝、2着4。一昨年、クレイアートビュン(浦和)→ヴァイタルシーズ(川崎)の決着で大穴となったが、大勢は大井、船橋で独占する。17~18年は船橋勢のワンツースリー。
(3)…性齢広範。5歳=4勝、2着1とリードだが、4歳、6歳、7歳もそれぞれ2勝ずつと肉薄する。牝馬は〔0-2-0-7〕。しかし17年プルザトリガー、19年アウスレーゼ2着など、能力の裏付けがあればチャンスが出てくる。
(4)…確率は先行勢。逃げ=8、先行=2、差し=9、追込み=1。ただし逃げ馬は2着が多く、単勝となると中団から鋭い脚を使うタイプが狙いになる。ジョッキーでは、御神本、真島、張田騎手あたりが相性がいい。
※データ推奨馬
◎マニエリスム…ぴたりハマる推奨馬ともいえないが、現南関東ではクラーベセクレタに次ぐ牝NO.2。勢い、上昇度がある4歳で、戸崎騎手もこのレース、そろそろ勝機が巡っていい。千六3勝をすべて大井であげた適性。川島正行厩舎は今回この1頭に勝負を賭ける。
☆ ☆
◎フジノウェーブ 58坂井
○スマートインパルス 58御神本
▲ピエールタイガー 57真島
△トーセンルーチェ 58張田
△マニエリスム 56戸崎
△ナムラブレット 57金子
△ラインジュエル 55有年
ディアーウィッシュ 58今野
ブリーズフレイバー 57繁田
ボンネビルレコード 58的場文
ドリームライナー 57本橋
フジノウェーブに期待した。10歳秋。ごく普通には“健在”が最上のほめ言葉だが、同馬の場合、むしろ“奇跡”という形容が当たるだろう。正直遥か昔になったGI(07年・JBCスプリント)。しかし以後5年、その持続力(生命力)は驚異的で、以後5年間、現実に重賞5勝、2着6。いくつか波はあったものの、今春「スプリング盃」を制し(2馬身1/2)、続くGIII「東京スプリント」もセイクリムズン相手に堂々たる2着(0.3秒差)だった。瞬発力、センス、勝負根性とも9分通り健在。そう考えれば今回背負い慣れた58キロは他馬と較べきわめて有利だ。ラチに沿って走る傾向があり、本来内枠が理想だが、現に5年前「マイルGP」を16頭立て14番枠から勝っている。今回10番枠。手の内に入れた坂井騎手で、好機に捲る競馬をイメージした。
スマートインパルスは距離万能のレース巧者。派手なイメージはないものの、昨秋オープンに昇って以来1度ととして大崩れがなく、前走東京記念(二千四百)も道中3番手から力強く競り勝った。フジノウェーブとお手馬がかちあった御神本Jがこちら騎乗。純粋な意味での選択かどうかさておき、呼吸が合うという点では、説得力がやはりある。徹底先行ピエールタイガーは、前々走GIII「オーバルS」を大敗したが、続く準重賞「ムーンライトC」を同じ徹底先行で勝ち切った。やや使い過ぎの懸念はあるものの、父カコイーシーズ、本来タフで頑健。道中自分の形に(一気の逃げ)に持ち込めれば、最後二の脚で抵抗する。トーセンルーチェは今回千六が微妙な選択。兄フリオーソながら、ここまでの歩みからは中~長距離型の感が強い。マニエリスムはもう一度試金石。同世代牝NO.2は実績通りだが、数字(480キロ台)より華奢に写る体つきで、レースもいい脚一瞬のうらみがある。薄目にナムラブレッド、ラインジュエル。前者は今春準重賞勝ちで瞬発力を証明。後者も昨年このレース5着で、能力と大井適性を同時に示した。ディアーウィッシュは状態ひと息。新境地を狙うブリーズフレイバーも気性面の若さに課題。
◆鎌倉記念回顧
(10月17日 川崎 サラ2歳 別定 南関東SIII 1500m重)
◎(1)インサイドザパーク 1分35秒4
○(2)クラグオー 首
△(3)ミータロー 11/2
(4)ヒカリワールド 11/2
△(5)アイディンゴッテス 11/2
………………
△(6)ドリームキングダム
(11)ウィンゲイル
△(12)スガキュール
▲ ナスノキセキ 出走取り消し
単490円 馬複400円 馬単1260円 3連複1560円 3連単6690円
インサイドザパークが、ゴール際の接戦を最後のひと伸びで競り勝った。午後から降り出した雨で差しが(とりわけ外から)ききにくい馬場状態。千五1分35秒4は平凡(過去10年・第6位)ながら、レース内容、インパクトはかなり強い。何より今回ライバル、目標であった道営2頭を退けた点に、南関東サイドとすると意味が大きい。半信半疑、何とも曖昧模糊としていた“全国区2歳馬レベル”に、一つ基準がみえたといえるだろう。
外からアイディンゴッテスの先行。ただこれは作戦というよりスタート、行き脚、成り行き上というべきで、3~4コーナー、ウィンゲイル、クラグオーが並んで追い上げ、そこからよーいドンの瞬発力勝負となった。インサイドザパークは懸念されたスタートこそ無難だったが、道中ズブさをみせ終始気合をつけながら7~8番手。直線理想的なタイミングで抜け出したクラグオーとは、ラスト1F、まだ5馬身ほど差がある。「末脚を信じて乗った。思っていたほど離れなかったし、結果的にいい形で勝てました。楽しみにしていた馬で、今日はすべてに期待通り」(左海騎手)。検討記事でも書いたこと。加速がついて重心が低く沈む、そのフォームが素晴らしい。2歳戦には珍しいゴール寸前の逆転劇。もう一つ、記者個人的には父タイムパラドックスという血統背景にも心が動く。パラドックスは「JBCクラシック」2勝。一昨年2歳にセルサス(ハイセイコー記念)輩出、南関東大種牡馬出現を思わせ、しかし同馬故障で勢いが途絶えていた。インサイドザパークは小柄(当日429キロ)でも、いざ闘志に火がついていい脚を長く使う。次走未定とされたが、ひとまず馬体増を含むパワーアップが課題になるか。素質と個性は統一Gでも見劣らない。
クラグオー2着。直線先頭、横綱相撲を逆転された形だが、同馬自身抜け出して首を上げるようなシーンもあり、勝負付けが終わったとも言い切れない。「初の左回りで少し窮屈な競馬になった。門別の方がいいですね。次は北海道2歳優駿=11月8日・1800mへ」(堂山調教師)。レースぶり自体は十分地力を感じさせた。ミータローもひとまず無難な走りで3着確保。距離千五は初体験。最後パンチ不足はキャリアの差だろう。TR「若武者賞」組(ナスノキセキ取り消し)は、ウィンゲイル、スガキュールともふるわなかった。前者は追ってからの味、後者はゲート難、不器用さに大きな課題を残している。ヒカリワールドがキャリア1戦(新馬勝ちだけ)のわりに健闘した。中団で折り合い、直線馬群の真ん中から確かな伸び脚。牝馬ながら恵まれたガッシリ力強い馬体(479キロ)で、フィガロ×フサイチコンコルドの血筋にも将来性を感じる。